実車に眺めてみて、乗ってみて、どう感じたのか。実はこの記事の文章とは順番が逆で、試乗会の進行スケジュールは、まず先に試乗し、その後で話を聞くという流れだった。このため、実車を前にした段階では『1人のキャストさんに焦点を当てた軽自動車』の話はまだ知らなかった。
先述の、「アクティバはテリオスキッド、スタイルはミラジーノの後継車」という話も出て、なるほど周りの軽自動車とはちょっと違うモデルが欲しいから、テリオスキッドやミラジーノ、「ネイキッド」などから乗り換えられない既存顧客は、きっといるよなぁ、と思いながら運転していたのだった。
そのキャスト、実車をみると軽自動車にしては塊感を感じる。ベースであるムーヴと全高を比較すると、スタイルが30mm低いだけで、リフトアップしたアクティバではムーヴと同じ1630mmなのだが、いわゆるハイトワゴンの様な印象は受けない。もちろんそこにはデザインの仕掛けがある。ムーヴは、小さい外形サイズの中で極力大きな空間を持つ印象を持たせるために、全体を大きな1つの立体で見せるカタチなのに対し、キャストでは下半身はどっしりと、上に行くに従って軽やかにという見せ方をしている。
他にも、キャビンを境目に上下に立体を分け、ムーヴと比較して、側面視でのドアに対するガラスの比率も小さくしている。Aピラー、Bピラーをブラックアウトしたりベルトラインに沿ってメッキモールを配置したりといったことも、視覚的に上下に分け重量感をロアボディ側で感じさせるのを助けている。
前や斜め前からの見え方でも、ドア上部のベルトラインに沿った位置での断面に丸みを持たせ、その丸みがヘッドランプから車両後部まで続いていること、へこみを設けてフェンダーアーチを見せる造形でタイヤの存在感を強調すること、ムーヴと比較してサイドウィンドウを少し内側に倒し込み、少しでもアッパーボディをコンパクトに見えるようにしたこと。これらの積み重ねで、実はムーヴとそんなに変わらない全高ながら、「スペースユーティリティー命のクルマとは違うゾ」と主張している。
と、書き並べるのは簡単だが、軽自動車の場合は、外側は法規上の最大寸法が、内側は人間の身体からくる必要な寸法と各種機器類が必要とする寸法が、というように内外両方からの寸法制約条件が厳しいので、開発現場では普通車以上に知恵と工夫を求められる場面も多い。
先のドアの丸みのケースを断面で見てみると、サイドウィンドウのガラスの曲率はムーヴと同じだが、ドアの上端位置を上に持ってくるほどその位置は車両内側となるので、最外部までの距離(ドアの厚み分)の寸法が大きく取れ、ドアの肩部により丸みを持たせることが可能となる。しかし、ドア上部(いわゆるベルトライン位置)が上がるほどにウィンドウの面積が小さくなり、体感的な狭苦しさや不快感、あるいは視界の問題などが出てくる。キャストにおいても、ベルトラインの高さはmm単位で検討したことだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.