Cerevoの開発スタイルは「プロダクト・アウト」。つまり、メーカー側の思想や理論を優先させ、潜在的ニーズを喚起するものですが、それには高い妥協点を設定する必要があります。開発担当の狐塚氏と石井氏は2015年4月のプロジェクト開始にあたって、まず原作の全話を鑑賞し、ドミネーターの変形だけではなく、劇中設定までも分析した上で、物理的に可能な範囲で原作の世界観を全て詰め込んだ製品を狙ったとのことです。
しかも今回は、2015年7月19日に開催したサイコパスのスペシャルイベントで製作発表という明確な「期日」が決められました。それは熱い原作ファンが集まる場所で発表することで、大きな反響を期待したからでした。そのため、開発に与えられた時間は約3カ月とあまりに短く、お2人はその中で骨身を削って全力を注ぐこととなりました。なお、お2人とも、ここまで複雑に動くモノの開発は、これが初めてだったということです。
ドミネーターとは、(作中の)厚生省管轄の社会秩序をつかさどるシステムとオンライン接続することで、システムが判定した「潜在犯」(今後罪を犯す可能性が高い人物)を鎮圧したり、排除したりできる銃器です。潜在犯の判定基準は「犯罪係数」と呼ばれる数値で、これが100を超えた時に発動する執行モードが「パラライザー」。これによって相手の神経を麻痺(まひ)させます。犯罪係数が300を超えた時の執行モードは「エリミネーター」。これは制圧不可能な「潜在犯」と見なした相手を直ちに処刑するモードで、潜在犯の人体を破裂させてしまいます。それ以上の犯罪係数を持つ相手に対しては、最強の執行モード「デコンポーザー」が発動し、潜在犯の人体を周囲の空間ごと分子分解してしまうのです。
Cerevoが製作したDOMINATOR MAXIは、この3つのモードのうち「パラライザー」と「エリミネーター」を再現したものになっています(もちろん、こちらには殺傷能力はありませんよ!)。
DOMINATOR MAXIの設計にあたっては、作品の設定資料集やアニメの映像から割り出せる要素は極めて少ないため、まず、映像でパラライザー状態とエリミネーター状態とを見比べて、その2つをどうつなげるかを考え、そこから劇中の変形シーンのように動かすための部品構成を考えていったとのことです。その時、アニメーションならではの現実離れした描写と、現実の落とし所を探りながら、“それらしい動き”に見えるように各部品を作りこんでいったということです。意匠については、作中で使用されたCGデータを参考に、ほぼ全部品を一から設計・モデリングしたのだそうです。
試作初期では3Dプリンタが駆使されました。これは、超短納期の中で、出来上がったモデリングデータを短時間で検証するのに活躍しました。ただ、3Dプリンタ特有の積層跡やざらつきが解消できず、後半で外装部品は切削加工製のものに変更したとのことです。
カムや歯車などの変形機構の部品試作にも3Dプリンタを使ってみたものの、動かそうとした時に、設計値通りの精度が出ないという不具合が発生。こういった時に、少なくとも切削加工で部品の精度を出しておけば不具合原因が判断しやすくなるため、これらの製作も全て切削加工になりました。やはり、動くモノを作るためには切削加工は欠かせないのですね。
こちらは3Dプリンタで製作したものです。
こちらは切削加工製に替えたものです。
その他板金部品なども合わせて、使用されている機構部品の点数はおよそ90点にも上ったとのことです。
見れば見るほど、これは玩具ではなくまさに家電! ここにCerevoの理念と技術が詰まっているのが分かります。
原作に忠実な鮮やかなアイスブルーを出すために、フルカラーLEDの色調整にも大変苦労したそうです。細部へのこだわりの結果、とても美しい製品になっています。
現在は、完成形まであと少しといった段階とのことで、起動用のタッチセンサー(グリップ部)と、変形機能、LED点灯機能までが実装されています。この後、無線LAN、カメラ機能、スマートフォン連動機能、そして声優の日高のり子さんによる「シビュラシステム」の音声が実装され、原作に忠実な製品に仕上がるということです。今から楽しみですね!
製品版の発売は2015年度内を予定していて、現在は量産のため金型メーカーと打ち合わせ中とのことでした。
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