先述した通り、SIMPACKのユーザー数の半分以上は、自動車とエンジンで占められている。自動車業界向けのモジュール「SIMPACK Automotive」は、振動解析による乗り心地改善、操縦安定性解析、ドライブシャフトなどの疲労解析、ギヤボックス内のギヤから発生するギヤノイズなどNVHの確認などにも用いられている。
主要ユーザーは、Daimler(ダイムラー)、BMW、Jaguar Land Rover(ジャガーランドローバー)、MAN、Robert Bosch(ボッシュ)など海外勢が中心だが、日本でもホンダなどが採用している。
SIMPACK Automotiveによるマルチボディシミュレーションの用途は、車両に加わる振動の周波数と強度によって大まかに分けられる。操縦安定性であれば5〜10Hz、乗り心地であれば10Hz以上、NVHなどであれば数百Hzの領域になり、kHz単位になる音響解析も対象になる。松井氏は、「SIMPACKの最大の特徴は、独自アルゴリズムによる高速の計算速度であり、振動の周波数が高くなるほど力を発揮できる」と強調する。
この高速演算性能を生かしたモジュールが「SIMPACK Realtime」だ。SIMPACK Realtimeは、SIMPACKを使って車両の3次元モデル挙動をリアルタイムにシミュレーションしながらアニメーション表示させることができるモジュールだ。3次元グラフィックスの“ガワ”さえ用意すれば、ドライビングシミュレータとして活用できる。
一般的なドライビングシミュレータは、車両の3次元モデルの自由度が20〜30程度にすぎない。しかしSIMPACK Realtimeは、自由度が200以上の車両の3次元モデルをリアルタイムでシミュレーション/アニメーションさせられる。また車両に加わる振動の周波数についても、ドライビングシミュレータは10Hz以下の操縦安定性までしか確認できないのに対し、SIMPACK Realtimeであれば乗り心地の確認に必要な数十Hzも可能だ。
実際にBMWの事例では、設計した車両の乗り心地について20〜30Hzまでの振動をSIMPACK Realtimeで確認しており、車両開発の早期の段階で仕様を絞り込む用途で効果があったとしている。
会見では、8コアCPU(Intelの「Xeon」)を搭載するLinuxサーバ上でSIMPACK Realtimeによる車両の3次元モデルのリアルタイムシミュレーションを実行しながら、「rFactor Pro」をドライビングシミュレータの3次元グラフィックスとして使用したドライビングシミュレータのデモンストレーションを披露した。ステアリングやペダルは、車両開発用のフィードバック機構付きのものを使用している。
ここまで紹介してきたSIMPACKが買収によってSIMULIAの一員になったわけだが、他のSIMULIA製品との連携はどのように深めていくのだろうか。
ダッソー・システムズのSIMULIA事業部 ディレクターを務める岩本康栄氏は「かつてのマルチボディシミュレーションは、剛体+線形変化というものが中心だったが、製品に利用される素材の移り変わりによって、弾性体+非線形という需要も高まっている。SIMULIAの主力製品である構造解析ツール『Abaqus』とSIMPACKを連携させれば、弾性体を使った非線形フレックスボディの挙動解析を従来よりも拡張できるようになる」と説明する。
他にも、Abaqusと疲労解析ツール「fe-safe」によるSIMPACKの耐久性/疲労解析機能の強化、ノンパラメトリック最適化ツール「Tosca」による形状最適化機能の追加、プロセス統合・設計最適化ツール「Isight」によるパラメータ最適化などが考えられるという。
また、SIMULIA製品ではないものの、モデルベース開発ツール「Dymola」と連携させれば、制御システム設計と大規模解析を連携させる「1D-3Dシミュレーション」への展開も容易だとしている。
なおダッソー・システムズは、2015年9月11日に東京都内で「SIMPACK Automotiveセミナー」を開催する予定だ。
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