2014年後半から2015年にかけて、日本政府から医療機器の開発を支援するための施策が続々と進められている。これらの施策の立案と実施に携わっている、経済産業省の商務情報政策局で医療・福祉機器産業室長を務める土屋博史氏に話を聞いた。
2014年後半から2015年にかけて、日本政府から医療機器の開発を支援するための施策が続々と進められていることをご存じだろうか。
まず2014年10月に、医療機器の開発・事業化を支援する「医療機器開発支援ネットワーク」が発足。2014年11月には、従来の薬事法を改正した医薬品・医療機器法が施行された。医薬品・医療機器法では、医薬品と医療機器を明確に分けるとともに、新たに医療機器を開発する際の認証・承認手続きも一部簡略化されることになった。
そして、2015年4月には、日本国内における先端的な医療分野の研究開発を統括する組織として日本医療研究開発機構(AMED)が発足している。
現在、世界の医療機器メーカーの売上高ランキングを見ると、上位20社を欧米企業が占め、21位にテルモ、23位にオリンパス、25位に東芝メディカルがやっと入るような状況だ。日本の医療機器市場も、治療機器を中心に輸入超過となっている。政府の施策は、高齢化が進む日本社会に役立つ医療機器が生まれるような土壌を作り出しつつ、日本の医療機器産業を強化する狙いがある。
そこで、これらの施策の立案と実施に携わっている、経済産業省 商務情報政策局で医療・福祉機器産業室長と国際展開推進室長を務める土屋博史氏に、同省が進めてきたこれまでの施策や、新たに発足した医療機器開発支援ネットワークへの期待、日本の医療機器産業強化の方向性などについて話を聞いた。
MONOist 2014年後半から2015年前半にかけての1年間で、医療機器開発を支援するさまざまな施策が一気に進められたイメージがあります。経済産業省が中心になって進めている施策について教えてください。
土屋氏 医療機器産業は多品種少量、多様性という特徴があり、大企業のみならず中堅・中小企業が活躍できるフィールドも多く存在します。こうした中で、経済産業省では、「チームワーク」と「イノベーションの加速」をキーワードに、関係省庁や企業・大学・医療関係機関等との連携を通じ、医療ニーズを踏まえた医療の質と効率性の向上、健康寿命の延伸に貢献する機器の開発・事業化を、戦略的に進めてきました。
「チームワーク」を生かした医療機器開発進めるにあたり、これまで医療現場のニーズを有する医療従事者(医学)と、モノづくり技術を有する企業・大学による「医工連携」を推進し、医療現場が抱える課題を解決する医療機器の開発に取り組んでいます。「医工連携事業化推進事業」では、平成22年度(2010年度)から、5年間で総計107件の医療機器の開発を支援してきました。現在、そのうち約3割が、既に製品化という形で成果が出始めています。
また、日本が強みを持つロボット技術、金属加工技術やICTなどの技術を結集し、重点分野をターゲットとした「イノベーションの加速」を実現することで、オンリーワンで世界最先端の革新的な医療機器の開発・事業化を加速するべく「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業」を実施しています。
これら施策による医療機器の開発・事業化に取り組む中で、主に4つの点から、各段階におけるハードルが浮き彫りとなりました。
1つ目は、ユーザー(医療現場)側のニーズを適切に把握・認識することが難しい点。医療は専門性が高いだけに、医療従事者のコメントを直接的に受け止めて製品化するのではなく、それを十分かみ砕いた上で事業性を織り込み製品化する能力が求められます。2つ目は、医療機関への販路開拓が容易ではなく、「作ったけど売れない」状況が起こりやすい点。開発初期段階で、具体的な販売を見据えた事業化(知財・生産・ファイナンス・保険収載・国内外の流通網の確保)の戦略を立てることが重要です。3つ目は、薬事関連制度の専門性が高く、関連する手続きを見据えた開発計画・臨床試験計画の策定や、臨床試験を行う医療現場の確保、薬事申請書の作成といった対応が不可欠な点。そして4つ目は、医療機器の開発・事業化を支援する取組が全国各地で活発になっている一方で、支援のノウハウや情報が不足がちで、特にソフト面でもう一段の支援が必要とされている点です。
MONOist そういった課題もある中、医工連携はどのような形で進められているのでしょうか。
土屋氏 こうした課題を解決し、各地における医療機器開発のイニシアティブを支えるべく、平成26年(2014年)10月に立ち上げたのが「医療機器開発支援ネットワーク」です。関係省庁(内閣官房健康・医療戦略室、文部科学省、厚生労働省、経済産業省)やAMED、医薬品医療機器総合機構(PMDA)、産業技術総合研究所(産総研)などの関係機関、63の地域支援機関がチーム一丸となって連携し、開発初期段階から事業化に至るまで、やる気と技術力のある企業などに対して、「ワンストップで切れ目のない支援」を提供しています。
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