では次に、トランジスタの制御(増幅)についてみていきましょう。この時に使われるのが「Ib-Vbe特性」という考え方です。これはBに流れ込む電流Ibと、B→E間の電圧Vbeとの関係を調べたもので、縦軸にIb、横軸にVbeを取ったグラフで表します。Ibの軸は対数で表されます。
実際に入力側から入る信号は、ここでは音声信号となるのですが、複雑になってしまうので正弦波で考えることが多いです。ここでもそれに習って正弦波での入力として見ていきます。
ちょっと分かりづらいですが、縦軸のIbに沿ってVbeの正弦波が、横軸のVbeに沿って電流Ibが流れると思ってください。0Vを中心とした正弦波がBから入ってきた電流Ibは、B→E間はPN接合ですので、BからEには電流が流れますが、EからBには流れません。このため正弦波のIb=0以下ではマイナスの値を取ることができないので、0の値となります。
これではかなり波形にヒズミがありますね。ポータブルアンプでの利用を考えると、この波形では、ヒズミのあるまま音が増幅されることになってしまいます。しかし、いままでの0V中心ではなく、0.7Vを原点とした正弦波を考えると以下のようになります。
0V以下の要素がなくなりましたので、これまでよりもヒズミの少ない正弦波となっていますね。このように中心を0Vからずらす場合、その値とする電圧を「バイアス電圧」と言い、Vbe0と書きます。このように実際、トランジスタを使って増幅回路を設計する際にはバイアス電圧を設定し、それに伴ってバイアス電流Ic0が流れます。このVbe0、Ic0のことを「動作点」と言います。
ここで実際の回路図に戻ってみます。先ほどの回路図には左右のチャンネルが合わせて書かれていますから、ここは単純化のために1つのチャンネルだけを取り出してみます。
左の入力側から来た信号が、47μFのコンデンサに伝わります。その信号が3.9kΩの抵抗を通して来たIbの電流と合成されて変化します。そしてこの信号の変化に合わせてIcの電流も変化しますが、それは先ほどの式によりIc=βIbとなり、β倍の増幅率を持つ増幅回路として、アンプとしての機能を果たすこととなります。
次回は実際にハンダごてで作り上げていくことにしましょう。
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