CADやCAE、HPCの分野では近年、クラウド型のサービスが増えてきている。IT分野自体では2006〜2008年にかけてGoogleやAmazonといったIT大手が乗り出して普及していったが、製造業関係ではそれより一歩遅れてブームがやってきた。2009年ごろには大学や研究機関が保有するHPC環境の一部を活用したHPCサービスが登場している。PLMやCAD関係ではそれよりさらに一歩遅れて、2011年ころからベンダー各社がクラウドをコンセプトとした製品を発表するケースが増えてきた。
製造業では今もなおクラウドに対して懸念を抱くユーザーは少なくない。特に機密性が非常に高い事項を扱う解析の分野においては、クラウドにデータを送るという行為自体にナーバスになってしまうこともある。ただ、石川氏によれば、「大手企業を中心にクラウドに対する意識が変わってきている」という。特にIDAJの顧客に多い自動車関連では、クラウドに対する抵抗感はだいぶなくなってきているということだ。
現在のIDAJでは、受託開発の繁忙期を乗り切るためにIBMが提供するクラウドHPCサービス(IBM SoftLayer)を利用している。クラウド上にあるPCクラスタマシンであれば、繁忙期の間に必要なだけ計算リソースの確保が可能である。常に最新のサーバが備わっているためか、ベンチマーク時には同社内に備えるサーバと比較すると1、2割くらい計算が早いという結果になったという。実際のプロジェクトでも、見積もりより実作業が早く終わるケースもあったとのこと。「受託解析の顧客に対して、計算する際に、社内サーバかクラウドサーバかどちらを使うのか説明をしているが、この計算の早さを期待して、クラウドサーバを使ってほしいとリクエストされるケースもある」(石川氏)。
ただ、並列性能がよく、計算が速いといっても、並列数が今以上に増加し、より大規模化してくれば、現状のサービスのデータ通信速度では耐え切れなくなってくることは予想できる。今後は、クラウド型HPCサービスの通信回線がどう進化していくかも課題となるだろう。またIDAJで利用しているのは、物理サーバが構築できるタイプのサービスである。しかし実際、同様のサービスには仮想マシンを利用したものが多い。データが大規模化してきているCAEの分野については、物理サーバが扱えるサービスが選択肢としてもう少し増えてくることも期待されるだろう。
コスト面や計算能力面で利点があるクラウドサーバだが、社内サーバで計算する利点や顧客のニーズも当然あると石川氏は言う。同社顧客の中でクラウドに対する理解が進んでいるとはいっても、顧客企業内の発注規定がクラウドサーバに合わない規定になっているせいで発注ができないケースもあるそうだ。
「今後も社内サーバとクラウド上のサーバを状況に応じて使い分けていく形となる。サーバを償却するタイミングでクラウドに置き換えることも検討している」(石川氏)。どの程度まで社内のサーバを絞り込み、どこまでクラウドサーバに任せるか、その切り分けは今後の課題だということだ。
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