ZEV規制から読み解く環境対応自動車の攻防〔後編〕知財コンサルタントが教える業界事情(20)(3/5 ページ)

» 2015年04月21日 12時00分 公開
[菅田正夫MONOist]

欧州自動車メーカーの動向

 2014年11月の「ロサンゼルスモーターショー2014」で、VW(Volkswagen:フォルクスワーゲン)はFCVを発表しました(関連記事:フォルクスワーゲンが燃料電池車にも生かす「MQB」の強み)。

 FCVには、VWグループのモジュール・プラットフォーム「MQB」が採用されています。FCVの発表に際して「1つのプラットフォームで、ガソリン車、ディーゼル車、天然ガス車、EV、そしてFCVと、あらゆるパワートレイン(Power Train)の車両を造り分けられることを示した」(VW)と同社は強調しています。このFCVには、VWグループのAudi(アウディ)の車両と同様に、リチウムイオン電池が搭載されていますが、外部電源でリチウムイオン電池を充電することはできません。ただし、「1つのパワートレインで、あらゆる駆動方式の車輛に対応する方式」を採用すれば、FCVの低価格化促進策になる可能性があります。

 一方、前編でも紹介しましたが、同じVWグループのアウディが燃料電池の老舗企業である、バラード(Ballard Power Systems)の燃料電池特許を購入しています。さらに2019年までの共同技術開発契約を行い、VWグループとして同特許を積極的に活用していくという方針を示しています。前編ではバラードを含めたVWグループのFCV関連特許の数が規模的に大きなモノとなることを示しましたが、この知財を核にVWグループはFCVの開発を進めていくと見られます。

水素製造と水素供給インフラの現状

 一方で、これらのFCV普及の基盤となる、水素の製造と供給を含めた水素供給インフラの整備は、どの程度進んでいるのでしょうか。

 「Fuel Cells 2000」には、欧米の水素ステーションの設置状況が紹介されていますが、FCVの急速な普及を期待できるような設置数ではありません。しかし、やはりカリフォルニア州の水素ステーション設置数だけが突出して多いことは事実です(図3)。

photo 図3:Hydrogen Fueling Stations in North America(クリックでサイトへ)

 ZEVを推進するカリフォルニア州では、水素ステーションの商業化が進展しています。さらに欧州では、水素製造に関する新たな試みが行われていることが、日本でも紹介されています※)。これらの後押しが現状の水素ステーションの普及につながっているのではないでしょうか。

※)デロイトトーマツコンサルティング「水素エネルギーが普及した東京の将来像について」(2015年2月3日)

 ただ、先進国では、既に供給体制が社会インフラ基盤となっている電力やガソリンでさえ、将来にわたる供給をどう担保するかは、世界的な課題となっています。ましてや、「排気側のクリーン性が強調されている燃料電池に必要な水素の供給体制確立」は、米欧においてもこれからであり、日本でもすぐに実現できるかといわれれば難しいのが現状でしょう。

 だからこそ、トヨタは水素ステーション関連特許約70件を無期限で、無償開放して水素ステーション普及の加速化を狙っているのだといえます(関連記事:トヨタの燃料電池車特許の無償公開に見る、4つの論点)。

 この流れの中で、水素の製造と輸送技術に取り組む日本企業も存在します。次ページではその動向を取り上げようと思います。

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