海外拠点まで含めてERPを導入しようとする場合、最初にベースとなるシステムのひな型(テンプレート)を構築しておき、そのテンプレートを用いて各国の商慣習や法制度に対応するための設定を追加するような方法を採用します。テンプレートを構築する際に、国内の業務に合わせてむやみに機能を追加開発してしまうと、海外に展開したときに日本用に追加した機能が制約になって、海外用の標準機能が使えないような事態に陥ってしまう可能性があります。
例えば、日本の業務に合わせて売上入力画面をアドオン開発した場合、当然ながら日本の消費税は問題なく計算できますが、海外で利用する際に現地の付加価値税の計算に対応できない、といった事態が起こり得ます。グローバルで活用できるERP製品であれば、極力標準機能を使って運用した方が、海外展開に上手く適合できるでしょう。
近年の変化の激しいビジネス環境においては、短期間で海外拠点を立ち上げる必要性に迫られることも多くなっています。特にM&Aでは、情報が開示されるタイミングが遅く、準備にかけられる時間が短い場合が普通です。海外でビジネスを遂行するには情報システムによるサポートは欠かせないため、短期間でシステムも含めて拠点を立ち上げることが求められます。そのような事態に対応するためにも、あらかじめテンプレートを準備しておき、マスターを設定するだけでシステムを稼働できるように準備しておくことは非常に有用です。
導入工程で大事なことは、必要なタイミングで意思決定しながらプロジェクトを進めることです。実際にERPを導入するプロジェクトの中では、数多くの課題が発生します。失敗するプロジェクトでは、必要なタイミングで意思決定をせずに先送りしてしまった結果、プロジェクトの後半に大きな問題となってしまい、リカバリーするのに多大な労力を要する、というケースが多く見受けられます。要件定義の段階であれば軽微な変更であっても、開発が完了してから変更が発生すると何倍もの時間とコストが掛かってしまいます。
意思決定が先送りされてしまう原因には、現場の抵抗が大きいことが挙げられます。ERP導入では、従来の業務手順や管理方法に対する変革が伴いますが、これまで慣れ親しんでいるやり方を変更する場合には、往々にして現場が抵抗を示します。そのような状況において、現場を巻き込んで協力関係を築き、時には経営層を説得しながら適切な判断を下し、プロジェクトをリードする人材が求められます。最適な人材をリーダーに任命し、適切なタイミングで意思決定しながらプロジェクトを推進することが、ERP導入を成功させるためには重要な要素であるといえます。
ビジネスをグローバルに展開する場合、国内だけの場合に比べて全社的なビジネスの状況を把握することが難しくなるため、ERPのようなITの仕組みは非常に強力な武器になります。ビジネスの状況が十分に把握できない状態で経営するのは、スピードメーターの付いてない車を運転するようなものです。実際に、グローバルビジネスで競合となる欧米企業では、ERPを当たり前のように使いこなしています。彼らと同じ土俵で戦うためには、ERPのような経営管理の仕組みを持つことは必須といえるでしょう。
しかし、実態としてERPの導入は簡単ではなく、失敗するリスクも付きまといます。通常の企業では、ERPのような基幹システムを構築するプロジェクトは10年に1回程度のイベントなので、そもそもプロジェクト経験者が少なく、ノウハウも不足していることが一般的なように感じています。
第4回から3回にわたって、ERPを導入する際に重要なポイントを解説してきました。導入の際のご参考となれば幸いです。
次回は、ERPを活用したKPI管理についてお話します(次回に続く)。
大手製造業企業で社内SE、大手SIベンダーでERPコンサルタントを経験し、スカイライトコンサルティングに入社。大手企業からベンチャーまで、幅広い会社に対してのコンサルティングを実施。経営管理領域を中心に、IT戦略立案から全社的な経営改革、業績管理制度の構築、業務改革、システム導入、新規事業の立ち上げなどのプロジェクトに携わる。中小企業診断士。
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