さまざまな解析・シミュレーションによる検討とともに、実験による検証も実施している。3Dプリンタを使って動脈瘤の概形を出力し、シリコンで血管形状を作成して、PIV(particle image velocimetry:粒子画像流速測定)法で実験している。この実験は東京理科大の元祐昌廣研究室と取り組んでいる。
血流解析による研究成果を基に、ソフトウェアやステント製造企業と協力して、目的特化型のCFDツールの開発に取り組んでいる。これは患者ごとに血流シミュレーションをして、適切なセミカスタムステントを検討する、ソフトウェアとステントをセットにしての製品化を目指している。高尾氏は「血液の流れを見るCFDは、医療現場の医療機器として採用され始めているが、使われるのは汎用ソフトウェアだ。またステントを簡単に置いてみるといったこともできない。開発中の製品では解析の専門知識がなくても使えることを目標としている。CT画像を読み込んで簡単な操作の後、ボタン1つで解析できるものを目指したい」とコンセプトを語る。
CFDツールでは流れを可視化するとともに、圧力やWSS、流速をはじめとした脳動脈瘤に関わると指摘されている数値全てを確認できるものを作る予定だという。
医療向けITソリューションに強みを持つアルムを取りまとめ役として、カテーテル治療器具で高いシェアを持つ朝日インテックや慈恵医大、データ処理のメディべーションなどが協力し、経済産業省による「平成25年度課題解決型医療機器等開発事業」として進めている。
人体にCFDを適用する難しさは、「個人によって、血管の硬さや厚さといった、物性や他の条件が異なること。そして物性を直接測定する手段は現在のところない」(高尾氏)ということだ。いちばん理想的なのは、個人の体全体をシミュレーションで再現することだが、そのためには血管の硬さやその厚さ、周りの臓器との拘束条件などの値が必要になる。だが人の体は簡単に、中を開けて測定するわけにはいかない。そこで代わりの手段となるのが画像診断だという。最近の研究において、血管の硬さとCT画像におけるX線の透過率との相関などが研究されている。「検査技術が追い付けば、やれることはたくさんある」(高尾氏)といい、さまざまな分野と協力して取り組むことで、着々と研究は進展している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.