次世代技術を採用するのは、パワートレインやデザインだけではない。高い安全性を長所とするメルセデス・ベンツブランドの車両だけあって、先進的な運転支援技術を進めていった先にある自動運転技術と、自動運転が導入された先にあるシナリオまで考えている。
これまでに同社は、2013年の「フランクフルトモーターショー」で発表したSクラスベースの自動運転車「S500インテリジェントドライブ」や、2014年の「ハノーバーモーターショー」で発表した「アクトロス」ベースの自動運転商用車「フューチャートラック」といったテストカーで実際に公道を走るというデモンストレーションを行ってきた。
これらのテストカーは、ある意味で単に自動運転機能を搭載したテスト車にすぎない。しかしF 015で重要な要素は、自動運転によってもたらされるものを盛り込むことで自動車の将来像を見せてくれたことだ。自動運転車では、クルマの目的地を決めるのはドライバーでなくてもいい。助手席や後席の乗員でも、タッチパネルを操作すれば、目的地をセットして自動運転を起動することが可能になる。つまり、将来のモビリティではドライバー1人が移動の責任をとるのではなく、前席と後席の4つ座席どこからでも運転をコントロールできるというわけだ。
具体的には、ボディサイド内側のトリム部分に高輝度のディスプレイがあり、スマートフォン内の情報などを表示できる。そのディスプレイをスマートフォンのようにピンチやスワイプといった操作で目的地を設定したり、交通情報などを表示したりもできる。そして自動運転の起動も行える。もちろんステアリングホイールも備えているので、好みで運転をしてもいい。
なによりもユニークなのは、クルマが歩行者などを含めた周囲の環境とコミュニケーションを取ることだ。機械と人間のコミュニケーションといえば、人型ロボットのように表情で表現してもいいが、F 015のようなラグジュアリー・サルーンにはしっくりこない。ダイムラーでは、例えば、自動運転中はLEDを青く光らせて歩行者を確認しているという意志を表示して人間に伝える。その他、横断歩道を歩行者が渡ろうとするのを確認したら、自動で停止した後に「Please go ahead」と音声で意志を伝えるデモも行った。
これらの他、車両後部中央にQRコードを表示していたのが目をひいた。わざわざ座り込んでQRコードを読む人が多いとが思えないが、燃料電池を搭載するプラグインハイブリッド車というパワートレインを積むため、排気ガスを出すテールパイプがないという部分を十分にアピールしている。なお、このQRコードをスキャンしてみたところ、F 015の資料のURLが表示された。
自動運転の実現に関しては、技術の成熟もさることながら、法律や事故時の責任の在り方など、さまざまな分野で自動運転に対応した新しい規制を敷くことが求められる。その点について、ダイムラーがいかに真剣に取り組んでいるかをアピールすると同時に、ユーザーをはじめとする自動運転に関わる人たちとともに将来技術の実現に取り組む姿勢を見せたといっていいだろう。
川端由美(かわばた ゆみ)
自動車ジャーナリスト/環境ジャーナリスト。大学院で工学を修めた後、エンジニアとして就職。その後、自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開。カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の他、国土交通省の独立行政法人評価委員会委員や環境省の有識者委員も務める。
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