これらの状況において工作機械メーカーにとって重要なのは「いかに自力で景気動向の波の影響を抑え、それを乗り切る体制を作り上げるか」ということだ。そのためにはいかなる環境下においても生き残れるだけの収益維持・改善の仕組みを持つことが重要だと筆者は考えている。
特に課題と考えられるのが営業活動だ。外部環境の影響が大きい工作機械業界において営業活動は軽視されやすい部分である。その結果として受け身の営業体制となっている企業が少なくない。アリックスパートナーズが過去にプロジェクトとして支援した工作機械メーカーにおいても「営業」に課題が多くそこにてこ入れすることで大きく収益を改善できたケースがある。工作機械メーカーにとっては「外部環境の影響を受けない営業力」というのは取り組むべき、大きなテーマだと考えている。
営業の観点から収益の改善を考えた場合、大きくは「引き合いの増加」と「受注確度の向上」の2つの方向性が考えられる。また、それぞれに「営業活動の効率化」「新規チャネルの開拓」「≪顧客ニーズの吸い上げ>」「課題に対するアクション早期化」の打ち手が王道として挙げられる(図4)。これらの4つの取り組みの方向性について見てみよう。
引き合いがある中で既存顧客に対し、より多くの営業活動をこなすということを目指す。英語ではアカウントストラテジーと呼ぶところもある。要は「自社の顧客が誰で、何をいくらでいつ、どれだけの量を購入しているのか」「競合はどこで、シェアはどうなっており、顧客は何に付加価値を感じて製品を購入しているのか」など、既存顧客について徹底的に状況を把握、整理し、それに準じた打ち手を設定することで、営業の効率化を高めようという取り組みである。
個々の顧客の状況と自社の体力とを見きわめ、顧客をセグメント化し、優先順位を付けることで、限られた営業リソースの効率的な運用を目指す。ここで気を付けたいのは、営業担当者はどうしても「訪問しやすい客を訪問する」というものである。この分析を実施する際は営業担当者に丸投げではなく、営業マネジャー自らが分析に参加し、1つ1つの顧客の状況について営業担当者と議論を進めることが重要である。
先述した営業活動の効率化が、既存顧客を主たる対象としているのに対して、この取り組みは、新たな顧客の獲得を目指すものである。特に新規市場参入時には自社営業要員の工数・ネットワークともに不十分なケースが多く、それを代替するリソースとしての代理店(商社)の活用が有効だと考えられる。しかし、代理店に多くを求めることは難しいため、上手な活用が必要となる。特に顧客ニーズとのすり合わせが重要な営業活動の要素である工作機械においては代理店と自社営業との役割分担を明確にしておく必要がある。
アリックスパートナーズが工作機械メーカーの支援において過去に実施したケースでは、いわゆるカタログ品と呼ばれる汎用性の高い機械の場合はクロージング含め代理店に委託する場合もあったが、大体はドアオープンならびに顧客の初期ニーズの引き出しのみを代理店に依頼し、最初のスクリーニングに活用したケースが多かった。限られた自社営業リソースを最大活用するためにも可能な限りの前さばきを代理店にお願いするという狙いだ。もちろん、工作機械メーカーの営業担当以上に業界および製品の知見を持つ代理店担当者も存在する。その場合は個別で委託する業務の深さを調整することも有効だ。要は自社、代理店含め個々の担当者の力量を正しく見極め「できること」に専念してもらうことが与えられた営業リソースの最大効率化を実現する術である。
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