――8月に行われた前半の講義はどのような内容だったか?
神田沙織氏 ワークシートを埋めながら自分の価値観の再確認や作りたいモノを掘り下げてもらった。
最初は“なぜ作るのか”を自分の身の回りにあるモノや購入したモノ、欲しいモノなどを振り返り、その理由やエピソードを洗い出すことから始める。これを個人で書き出し、今度はペアとなった相手にそれを話して、その反応を確認。これにより、自分の価値観を見つめ直し、自分が何を作りたいか、どんなことを実現したいかを練っていく。
その際、万人ではなく1000人が共感してくれそうなモノを想像しながらフィルターを掛けて、アイデアを絞り込む。そして、次の段階で、そのアイデアに機能・用途・形状・寸法などを与えながらスケッチして、モノとしての形を整えていく。ここで注意が必要なのは、いくら自由な発想とはいえ、1000人を対象にしたプロダクトである以上、最低限のモノづくりの基礎やノウハウを押さえておく必要がある点だ。ここをきちんとしておかないと単なる自己満足のモノづくりで終わってしまう。
ちなみに、前半(2日間6コマ分)はアイデアスケッチ、そして「Rhinoceros」を使ったモデリング(ビジュアルのデータ化)までやっている。ここでのデータ化は、ビジュアルコミュニケーションのためだけではなく、試作のためにも重要となる。なぜモデリングするのか。その必要性や目的を与えてあげることで本当に作りたいものが作れるようになる。
今回の内容は、企業で実践されている手法やエッセンスを学生向けに変換し、短時間で行えるようあらためてまとめた内容といえる。
実際、1000個のモノづくりは、デジタルファブリケーション技術により実現できる規模感になりつつあるため、この取り組みが3Dプリンタを活用する際のヒントになればと思う。今後、学生だけでなく、社会人を対象に実験を進めてみてもいいかなと考えているところだ。将来、この取り組みの中から1000個の量産を行いビジネスする人も出てくるのではないか。今回の取り組みがその構想のスタートといえる。
9月16〜18日に行われる後半スタートまでの間、学生らは学校に設置してあるダヴィンチで、自分たちのモデルデータを出力し、実物を見て、触って、さらにデザインにフィードバックする作業を行う。そして、出来上がったモノを持って後半の講義に臨むことになる。間もなく行われる後半では、モノづくりそのものではなく、どう生産し、どう売るのか。そして、そのモノの価値をどう人に伝えるのかといった流れに主眼が置かれる。
――今回の取り組みで期待することは?
Sherry Liang氏 大量生産、大量消費の時代。モノを買って消費しているだけでは、モノへの意識が弱まってしまう。モノの作り方やモノを作る苦労が分からず、モノへの愛着がなくなり、観察しようとする力も弱くなっていく。3Dプリンタによる個人のモノづくりがより身近になれば、モノへの愛着や思い入れも強まり、新しい発想も生まれてくるのではないか。若い世代の人たちにはそういった点を期待したい。
神田沙織氏 今回の取り組みをきっかけに、無意識に使ったり、買ったりしているモノに意識が向き、モノの使い方や買い方が変わればいいと思う。また、そういう意識の変化が今後のモノの作り方にも大きな影響を及ぼすはずだ。3Dプリンタを通じて、脳が揺さぶられるような経験をしてくれたらと思う。
ただ、現状、3Dプリンタの活用はまだ限られている。個人利用において、実際の成功例のようなものが早い段階で生まれてきてほしいと思っている。イラスト共有サイトからプロのイラストレーターが誕生するように、モノづくりの世界でも同じようなレールが敷けたら面白い世界になると思う。
Sherry Liang氏 3Dプリンタは、モノ作りの在り方や流通の仕組みを大きく変える可能性を秘めている。冒頭で申した通り、われわれは、パーソナルユース(個人利用)をメインターゲットにしている。今後も低価格で誰でも手にすることができる3Dプリンタの展開に注力し、個人や少人数の組織でのモノづくり活動を支援していきたい。多くの方にモノづくりの楽しさを満喫してもらいたいと考えている。
【後編】では、2014年9月16〜18日に行われるProduct for 1000の講義と最終日の発表会、そしてFabLab Oitaについて紹介する予定だ(次回に続く)。
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