エアバッグ展開時の衝撃力はウサイン・ボルトの全力タックルと同じいまさら聞けない 電装部品入門(15)(2/4 ページ)

» 2014年07月03日 10時00分 公開

展開判断を行うロジックは未完成?

 ただしエアバッグが登場して数十年が経過した今でも、展開判断を行うロジックというのは完成形ではありません。

 エアバッグが装備されはじめた当初から比較するとかなり的確な展開判断に近づいてはいると思います。ただし、センサーを用いての判断である以上は、何らかの抜け/漏れが存在しているのも事実です(展開するべき条件で展開しないなど)。

 最近は、フロントサイドビームに取り付けられているフロントインパクトセンサーと、室内に設置されているSRSコントロールユニットからの情報を比較して総合的に判断していますので、本来はエアバッグを展開させなくてもよいのに展開してしまうケースはかなり少なくなりました。しかし、このような二重チェックを行わずに、室内のSRSコントロールユニットだけや、ステアリング内に設置された衝撃検知システムだけで展開判断を行っている車種もあります。

 室内のSRSコントロールユニットだけの場合、実際に前方にある障害物へ衝突していなくても、ユニットに衝突時と同レベルの衝撃が加わった時点で展開します。

 例えば、少し盛り上がったマンホールや道路の段差に、走行中の車両の底部(車底部)が触れてしまった場合、ボディにその衝撃が伝わります。この衝撃をSRSコントロールユニットが検知した時点で展開判断をします。

 この場合、車底部が障害物に当たったと同時に爆音を伴ってエアバッグが展開してしまいますので、乗員はなぜ展開したのか分からない(車底部が障害物に当たったという自覚がない)という不思議な事態になります。しかし車底部には確実に衝撃痕が残っていますので、車底部を点検すれば展開判断に至った経緯を読み取ることができます。

車底部に加わった衝撃痕の代表例であるフロントサブフレームのズレ 車底部に加わった衝撃痕の代表例であるフロントサブフレームのズレ

 一方、ステアリング内で衝撃を検知している場合、ドライバー運転中にイライラしてハンドルを強くたたいただけでエアバッグが展開してしまうという残念な事象が発生することがあります。

 こういった残念な事象は「おかしい!」と言いたくもなりますが、展開判断をゆだねられているユニットからすると決められた仕事をした結果ですので、とがめられる筋合いはありません。車種ごとに、エアバッグの展開条件に加えて取扱注意事項が定められていますので、しっかりと熟知しておきましょう。

エアバッグの展開=火薬による爆発

 エアバッグを瞬時に膨張させるために火薬を使用して爆発させていることは、前々回に紹介しました。火薬によって一時的に高温になったり、展開したエアバッグと顔面との摩擦によって火傷を負う可能性もあります。また爆発音や急激な気圧の変化で鼓膜を痛めたり、鼻血が出ることもあります。

 気圧の変化という点では、筆者も驚きの経験をしたことがあります。

 2階建ての建屋の2階で、いすに座って事務作業を行っていた際に、大きな爆発音とともに急に床が浮いたようになって私が座っているいすが少し宙に浮いたことがあります。「何ごとだ!?」と思って1階へ見に行ったところ、研修室でエアバッグの展開実験を行っていたということが分かりました。

 密閉された空間でエアバッグが展開し、室内の気圧が一気に高まって天井を押し上げ、結果的に床が浮いたのです。もし車内で同様のことが起きれば、その爆発音と衝撃が相当なものであることが安易に想像できますね。

 これらの現象に付随した人体への影響は常に懸念されており、実際に音の軽減対策なども施されてはいます。しかし、生命保護を最優先にしていることや、火薬を使ったシステムである以上、これらの対策に限界があるのも事実です。

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