破綻の危機を目前に控え、その対応に追われる一方で、前述した3つの課題についても、初期分析の結果、本質的な問題を特定することに成功した。
まず、「不良品率の高止まり」については、社内でその発生原因を特定する仕組み自体が存在しないことが判明した。つまり、不良品を出荷前にチェックする能力がほとんどなく、納入後数カ月たって客先から不良品として送り返された時点で、ようやく不良品として認識されるという状況だったということだ。そのため、生産ラインにおいて不良が発生する原因を特定できず、結果としてその問題が放置されてきた。そこで、3つある生産ラインの1つをモデルラインにすることを決め、そのモデルラインにチェックポイントやポカよけなどの仕掛けを設け、不良発生の原因を特定した(図2)。
生産ラインの不良の原因については、すぐに改善すると同時に、ラインのマネジャーを増員し、1日に何度も生産品質の確認作業を行うことを徹底した。また、高い不良率の原因は社内だけでなく、サプライヤから調達する部品の品質が低いことにもよることが判明した。問題を抱えるサプライヤには迅速にフィードバックし、社内では部品の目視チェックも含めた品質確認作業を徹底。要求品質を満たさない部品はすぐに返品することで、求める品質水準を厳格に適用するようにした。新興国の製造拠点では、サプライヤの品質を厳しくチェックしておく必要がある。これらの基本的かつ抜本的な取り組みにより、不良品率を2カ月で半減させることに成功した。
また、「新製品開発の遅れ」については、開発を円滑に行う障害となっていた組織間での連携不足の解消を図った。必要なエンジニアを海外から招聘(しょうへい)し、開発上の問題を最優先で解決するための人および設備の資源配分を経営陣が行うように求めた。その結果、3年かかって実現しなかった新製品の開発が6カ月で完遂できた。
さらに、組織間の連携を阻害し、企業利益と反する行動を取る一部の経営陣については、早急に入れ替えを行い、結果として6カ月で経営陣の半分を外部からの採用者に置き換えた。これらにより、事業計画実現のボトルネックとなっていた“組織のしがらみ”や“固定観念・先入観”を排除し、普通の企業として当然の“あるべき状態”に戻す一連の施策が行えるようになった。これらの取り組みの結果として、同社は1年足らずのうちに合弁設立後初の黒字化に成功することになるのである。
この例ほど事態が深刻なケースはそう多くはないが、現在の日本の製造業を取り巻く事業環境は、とにかく急激に変化している。需要の冷え込みや、為替の影響、原材料価格の急激な変動などの外部要因により、潜在的な問題が一気に顕在化することもあり得る。そのための打ち手を講じるタイミングが少しでも遅れると、状況が一気に深刻化するリスクを常に抱えているといっていいだろう。そして、そのリスクは、国内だけでなく、海外拠点においても同じように存在するのである。事態が深刻化する前に、“しがらみ”や“固定観念”を排除し、リスク要因を抜本的に解決するような変革が必要とされている。
今回は日本の製造業の多くが共通して抱える問題と企業再生の方法論について、総論を述べてきた。グローバル競争にさらされる日本の製造業の多くは、企業単体で解決できる範囲を超えた、複雑かつ根本的な課題に直面するようになっている。例えば、業界全体が設備・供給過剰に陥り、業界内で協働や合従連衡が必要とされている場合なども存在する。本連載の第2回以降は、日本の製造業を代表するいくつかの業界について、業界が抱える特有の課題と、再生への処方箋について述べていくつもりだ。(次回に続く)
日本長期信用銀行、マッキンゼー、ユニゾンキャピタルなどを経て、アリックスパートナーズ入社。企業再生、業績改善、企業買収・事業統合などの多数の実績を残す。
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