アイデアの1つに、「規格外農産品」をテーマとした特典案があるとのことだ。「例えばリンゴ全体を真っ赤にするために、農家が手間をかけて、万遍なく陽に当たるよう、りんごを回している。しかし実が葉の陰に来ると、その部分が赤くならず、市場では規格外とされてしまう。味は一緒なのに、それだけで流通できないようなものを『自然のまんまシリーズ』として、説明書と一緒に特典として提供しようという案がある。食品ロスは世界の課題であるし、子どもたちの食育にもつながればと思っている」(登内氏)。
登内氏が市役所で籍を置く課は、役所内の異なった産業分野が横連携することを目指す部署だという。上記の特典企画も、各産業分野の横連携が必要だ。かつての北上市役所は縦割の組織で、農業や商工など産業別に部署が分かれた部署同士が連携して何かに取り組むということはなく、このようなアイデアを生み出すことも難しかったという。
「東北の各県は、震災後もふるさと納税の制度をあまり活用してこなかった。東北の人たちは、ふるさと納税の活用が盛んな西日本の人ほどには商魂がたくましくなく、自己PRが苦手な傾向だと思う。そうした県民気質も起因しているのではないか」と登内氏は話す。例えば、市役所の職員たちも、自分らが復興支援に費やしてきた苦労も自らアピールすることもないという。「ただ、そんな奥ゆかしさも岩手県民の長所だと思うので、得意な部分で能力を発揮してもらい、PRや企画は私のような“外部の人間”に任せる体制が作れたらよいと考えている」(登内氏)。
岩手県内に大手メーカーの数は少なく、特にリーマンショック以降は減少の傾向だ。県内の製造業の多くが中小企業であり、いわゆる「下請け」を生業(なりわい)としているところが大半だ。「岩手県内は繊維産業が多いが、それぞれの企業に衣料のデザインができるパタンナーがいない。むしろ『いない』のが普通だと考えている」(登内氏)。売り上げの多くを依存していた大手顧客そのものが岩手県から撤退すれば、仕事は激減し、結果廃業へとつながってしまうこともある。
現在は不景気により単価は落ちる一方であり、仕事を継続して取りたい気持ちを逆手に取られ、顧客から買いたたかれてしまうこともある。東日本大震災当時、機能しなくなった被災地の企業の仕事が、北関東の企業に多く回ってきた。その見積もりは、受注した企業が見て驚くほどに低額だったという。発注元の多くは東京の企業だ。
「東北の企業も、東京の企業と対等に仕事ができるようにならなければ」と登内氏は言う。東北の企業が東京の企業の仕事を請け負うのではなく、共同で製品開発や研究に取り組めるようにしたい。例えば、東京都内では町工場が横連携して製品開発や研究に取り組む動きがあるが、東北の企業もうまくそこに巻き込みたい。登内氏はそう考える。「東京の企業にない技術を持つ東北企業もあるはず」(登内氏)。そうなっていくためには、やはり東北の企業の意識を少しでも変え、それにふさわしい人材を育てていかなければならない。
「下請の底力」「チームともだち」の一員だった、群馬県太田市の精密加工業 ユニーク工業の代表である羽廣保志氏は精密加工業の経営者で技術者でありながら、社名さながらのユニークなビジネスプロデュースや企画設計を得意としてきた。農業関連のビジネスプランコンテスト「A-1グランプリ」での優勝経験も持つ(関連記事:A-1グランプリ王者、語る。実はオイシイ農機具ビジネス)。登内氏は、「なかなか難しいかもしれないが、羽広君のようなプロデューサー的存在が東北にもっと表れてほしい」と話す。登内氏は、ビジネスプロデュースができる人材を育てるために、2012〜2013年にかけて、主に北上市の起業志願者を対象とした「起業塾」を開催。2014年は、さらに商品企画をテーマにした「企画塾」を実施するという。
「岩手県の企業は、“特殊なこと”が得意」と話すのは、岩手県奥州市の産業機械メーカー サンアイ精機の代表取締役 菊地晋也氏だ。岩手県内の中小製造業は、“生き残りを賭けた”他社との差別化や、特定の技術や分野への特化などの対応が比較的早かったと感じているという。同社もそのうちの1社だ。
サンアイ精機はエロワ日本やソディックなど、金型や自動化設備関連のメーカー向けに、クロステーブルや永磁式マグネットチャックなど、さまざまな生産自動化支援装置や治具を設計・製造している。大手企業の顧客と同社は、「発注元と下請け」という一方的な関係でない。菊地氏は、それを「顧客とタッグを組む」と表現する。
同社では、「他企業がやりたがらない」、一から設計する個別カスタマイズ装置への特化を強みに、「下請け仕事ゼロ」「自社製品100%」を掲げている。同社も、もともとは地元大手企業の下請け仕事中心だったが、1990年代から少しずつ自社製品に取り組み続け、その比率を増やしてきた。最近はその方針をより強める方向性へシフトしOEMの新規受注も完全にストップしたという。その方針のおかげもあり、同社の業績は周辺の大手企業の景気や動向に大きく揺さぶられることはないとのことだ。
ただし自社製品開発は甘いものではなく、失敗のリスクもある。「過去には失敗例も多い。たとえ展示会で試作品の評判がよくても、いざ市場に出してみても全く売れない場合もあった」と菊地氏は苦笑いする。そのような失敗を重ねつつも、「とにかく、ずっと新製品を開発し続けることが、メーカーにとって大事」であり、それが、格安な類似品を次々と投入してくるアジア圏メーカーとの差別化につながっていると同氏は言う。
現在の同社は、東南アジアや米国など海外市場への進出も考えているという。海外では、生産性を高める自動化関連製品のウケが特によいという。ただし、同社はモノづくりに集中し、海外での販売ルートの開拓や営業は、商社に任せたいとのことだ。
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