富士通は農業向け基幹システム“Akisai”や、同社の植物工場、施設園芸への取り組みを総括。農作業の“見える化”などにより、農業経営を支援していく方針を示した。
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉や食料自給率の低下、農業人口の縮小などから、日本の農業強化に大きな注目が集まっている。農業の国内生産額は1990年の13.7兆円をピークに減少し続けており、農家の数も1960年から2009年にかけて4分の1まで減少している。また農業従事者の平均年齢は65歳を超えるなど将来の農業人口は減少を加速する見込みだ。
これらの状況の中、農業の生産性向上は国にとっても必須事項となっている。この1つの手段としての注目を集めているのが、ITやエレクトロニクス技術を活用した新たな農業だ(関連記事:CEATEC JAPANに見る農業の未来、「モノづくり」としての農業にご注目!)。
富士通は2014年1月22日、同社が2012年10月に開始した農業・畜産業向けのクラウド型基幹サービス「Akisai」(秋彩)の現在までの実績を総括した。同社システムの農家での導入事例とその成果や、自社実践を進める、静岡県沼津市の自社農場、福島県会津若松市の富士通セミコンダクター会津若松工場で進める植物工場の実績などを紹介した。
Akisaiはクラウド型の農業管理システムで、経営管理や生産管理、販売管理、出荷管理などを行え、農業経営の“見える化”を実現できる。また、タブレット端末やスマートフォン端末から情報確認ができ、移動の無駄を削減することなども可能だ。「CEATEC AWARD 2012」の「総務大臣賞」や、「CEATEC AWARD 2013 米国メディアパネル・イノベーションアワード」の「Smart Community部門賞」など、多くの表彰を受けている。
2012年10月にサービスを開始したが、現在までに約160社が利用。それぞれに実績を残しているという。富士通 統合商品戦略本部長 兼 ソーシャルクラウドサービス本部長の阪井洋之氏は「現場から経営まで企業的農業経営を全域にわたりサポートし、農業経営の生産性向上につなげていく。サービス開始以降1000件以上の問い合わせが来るなど手応えは感じている」と話している。
製造業では、生産工程の標準化やデータを通じた“見える化”、またこれらを基にしたカイゼン活動が定着しており、生産原価や製品ごとの利益率の追求などが徹底されているが、農業では“カン”と“経験”による作業に頼るケースが多く、農作物の原価管理などを行っている農業法人はわずかだという。「これらのデータを見えるようにするだけで状況は大きく変わってくる」と阪井氏は強調する。
例えば、Akisaiを導入した宮崎県の新福青果では、収穫時期予測やそれに基づく生産計画が策定できるようになったことで、最適な時期の作業計画が立てられるようになり、キャベツの収穫量が1.3倍になったという。また、滋賀県のフクハラファームでは、田植え作業における工程別分析から課題を見つけ、作業プロセスの改善を進めることで、総作業時間を2年間で20%以上削減することに成功したという。
また富士通では、農業の現状に合ったシステム開発を進めるために、社内実践に積極的に取り組んでいる。静岡県沼津市に自社農場「沼津Akisai農場」を開設。実践から得たデータ、検証結果を基にしたサービス開発を進めている。
さらに、福島県会津若松市の半導体工場のクリーンルームを転用した植物工場ビジネスも展開。半導体製造用のクリーンルームをそのまま活用し2000m2の完全閉鎖型植物工場で、機能性野菜「低カリウムレタス」を生産。2014年2月から本格量産を開始し、病院などへの販売を行っていくという(関連記事:富士通が野菜を作る!? ――半導体のクリーンルームを転用した植物工場を設立)。
農業関連の展開について阪井氏は「とにかく農業を『経営』と呼べる状況に支援していくのが重要だ。それに使えるデータやアウトプットを用意していく」と強調している。
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