研究開発費は“コスト”なのか、データで見る技術立国の危機ものづくり白書を読み解く(後編)(2/3 ページ)

» 2013年10月30日 10時00分 公開
[大澤裕司MONOist]

増加する“近視”的な研究開発

 次に、研究開発費という量の面からだけではなく、質の面から研究開発の現状を分析してみたい。

 「研究開発の質」で注目したのが、研究開発期間である。ものづくり白書では、中長期的な研究開発(5〜10年)より短期的な研究開発(1〜4年程度)が増加傾向にあり、研究開発期間の短期化が強まっていること明らかにしている(図4)。電気機器、輸送用機器(自動車)、機械、化学の4業界を対象に、10年前と比較した研究開発期間の変化を紹介しているが、どの業界も短期的な研究開発へのシフトを強めた感がある。

 研究開発は本来、短期的な研究開発と中長期的な研究開発のバランスを取るべきもののはずだが、多くのコストと時間を要する革新的な技術開発よりも、コストと時間がともに抑えられ商品に近い技術開発の方が優先されていることになる。経営に余裕がなく中長期的な視点に立って研究開発を行いづらくなっている現状を示唆している。

研究開発期間変化 図4: 研究開発期間の変化(出典:2013年版ものづくり白書)(クリックで拡大)

 4業界の中でも短期的な研究へのシフトが顕著なのは、「電気機器」業界である。「短期的な研究開発費が増えている」と回答した企業が半数を超える55.7%を占め、他業界が30%台であるのとは異なり、明らかに突出した状況となっている。また「中長期的な研究開発費が増えている」と回答した企業にも8.0%と最も少なく、「輸送用機器」業界や「化学」業界の半分以下のレベルである。電気機器業界は、製品のライフサイクルが短くなり開発にかけられる時間が少なくなった上に、コモディティ化(一般用品化)が進み、国際的な価格競争にもさらされている現状を反映した形になった。

中長期的研究開発がしやすい環境をどう作るか

 中長期的な研究に重きを置けない要因には、企業にとってそういった研究開発が負担とリスクになり得ることが挙げられる。多くの時間やコストを掛けてもそれが必ずしも成果に結び付くとは限らない。従って、これらを軽減し企業が研究開発しやすい環境を作るには、政府の関与も重要な要素となる。ものづくり白書でも、この点に言及している。

 図5は研究開発に対する政府負担の国際比較を示したものである。

政府負担の研究開発費 図5: 政府負担の研究開発費の日中韓比較(出典:2013年版ものづくり白書)(クリックで拡大)

 日本、中国、韓国の3カ国を比較したものだが、2009年の政府負担研究開発費は、中国が2003年の約2.5倍、韓国が同約2.0倍。これに対し日本は、2009年の政府負担研究開発費が2003年からほぼ変わらず横ばい状態が続いている。

 これらを見ると日本は研究開発に関する企業の負担が大きく、その企業が研究開発の成果をより短期間で求める傾向が出てきていることから、基礎研究のような時間とコストの掛かるものは後回しになる状況が作りだされている。この状況が続けば、年々政府負担研究開発費を増やし続けている中国や韓国に、いずれ基礎研究を含めた技術力で負ける日が来るかもしれない。

 実は、その兆候は既に見え始めている。「世界的に注目度の高い論文(研究者に引用される回数が世界上位10%に入る論文)の執筆数各国シェア」を見ると、日本は2006年に中国に抜かれ4位となっている(図6)。日本はピークであった1998年と1999年の6.3%を境に緩やかに下がり続け、2010年は4.2%となっている。一方の中国は1995年の0.8%から徐々にシェアを上げ、2010年には8.1%に達している。これはドイツを抜き、米国に迫るものだ。

引用回数が多い論文の執筆数の各国比較 図6: 引用回数が多い論文の執筆数各国比較(出典:2013年版ものづくり白書)(クリックで拡大)

 安倍晋三政権における成長戦略の中で「研究開発減税」が議論されているが、政府が強い製造業の復活および継続的な成長を本気で目指すのであれば、政府負担研究開発費の増額など中長期的な研究開発に取り組みやすい環境を作る必要があるだろう。

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