法律・知財の専門家が製造業のグローバルサプライチェーンに潜む課題と対策について解説する本連載。第2回では、不正な設計・製造ITに対する米国当局の規制とそれに伴う日系製造業のリスクについて紹介します。
サプライチェーンのグローバル化に伴う、法規制・知財面でのリスクを紹介する本連載。第1回「グローバルサプライチェーンにおける知的財産盗用のリスク」では、サプライチェーンが広がることで潜むリスクにはサプライチェーンパートナーとの連携も含めた総合的な取り組みが必要だということをお伝えしました。
第2回となる今回は、製造過程における違法IT(無許諾で使用されるハードウェア、ソフトウェアなどの情報技術)の使用について紹介します。違法ITに対する米国当局の取り締まりが、日系企業のサプライチェーンにおいてどのような形でリスクとなるのか、オープン・コンピューティング・アライアンス(OCA)アジア太平洋地域事務局長のマイケル・マッド(Michael Mudd)氏が、事例を含めて解説します。
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この50年間に、製造業は、欧州・北米からアジアへと軸足を移しながら発展してきました。当初は、安い労働力と複雑な手作業を行えることが理由でした。しかし今ではアジアでの生産は、バリューチェーンの下流から上流に進み、繊維や家具、付加価値のある高級家電、自動車、軽トラックをも製造するようになっています。
西洋諸国では製造業の雇用が大幅に減少しましたが、アウトソーシング(外部委託)はもはや西洋だけのトレンドではありません。グローバルサプライチェーンにとっては、なくてはならないものとなっています。日本企業も、他の製造先進国と競争するためにアウトソーシングを行っています。それが製品をできるだけ安く消費者に提供できる大きな理由となるからです。
一方で推定6000億ドル規模に達する偽造品市場の急拡大を引き起こしました。これは、世界の違法薬物取引とほぼ同じ規模です。ブランド品の偽造からDVDのコピーまでさまざまですが、医薬品や自動車予備部品の偽造など、より悪質なものもあります。この状況が、まさにグローバルサプライチェーンの健全性を脅かしているのです。
2012年、米国連邦取引委員会(FTC)は、オバマ大統領の指示に基づき、貿易関連法の執行部隊(Trade Enforcement Unit)を設立しました。これは、米国の貿易相手国による不公正な慣行を捜査することを任務とした連邦機関です。
不公正な貿易慣行には、当然さまざまな行為が含まれますが、アジアを本拠とする多くの企業が手を染めている行為は、製造過程におけるソフトウェアの海賊版の使用です。「BSA|ザ・ソフトウェア・アライアンス」の2012年の調査によれば、アジア太平洋地域における違法ソフトウェアの使用率は60%に上っています。それに対し、北米では3分の1の21%です。また日本も米国と同等の数字です。
これは、どの程度「不公正な貿易」といえるでしょうか。他のすべての条件を同じとした場合、ソフトウェアの代金を支払っている企業は、ソフトウェアを昔から盗用している企業に比べ、固定費が高くなります。つまり、代金が支払われていないソフトウェアを使用する企業は、不正な財務的利益を得ることになります。
違法ソフトウェアの使用により著作権所有者が受ける損害額は、2011年には630億ドルを超えました。商用ソフトウェアで、アジアにおいて違法ソフトウェアの使用による損害額が最も高かったのは中国で、違法コピー率は77%に上ります。正当なソフトウェアの使用はたった2割程度しかないということです。
しかし、中国だけが特別なのではなく、タイは72%、インドネシアは86%、ベトナムは81%と非常に高い違法コピー率となっています。いずれの国も、製造業における日本の主要な投資先です。違法ソフトウェアの使用が製造業に蔓延(まんえん)していることが、この数字からも明らかです。
これらに対して、米国政府が本格的に取り締まりを行い始めたということです。
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