その一方で強調したのが、フォルクスワーゲン、Audi(アウディ)、ポルシェの3ブランドから市販される電気自動車(EV)やPHEVを並べて、「eモビリティ」と彼らが呼ぶ電動車両の展開を強調した。実はこれまでフォルクスワーゲングループは、車両の電動化についてあまり言及していなかった。それだけに今回、フォルクスワーゲンの「e-up!」と「e-Golf(eゴルフ)」、アウディの「A3 eトロン」、ポルシェの「パナメーラS eハイブリッド」を並べて、個別にプレゼンテーションしたことには驚かされた。
今夏、新たにフォルクスワーゲンブランドの技術担当トップに着任したHeinz-Jakob Neusser(ハインツ ヤコブ・ノイサー)氏、その前任者でありアウディの技術担当役員に返り咲いたUlrich Hackenberg(ウルリッヒ・ハッケンベルク)氏、ハッケンベルク氏と並んでフォルクスワーゲングループの技術担当役員として辣腕(らつわん)を振るった後、現在はポルシェの技術担当役員を務めるWolfgang Hatz(ヴォルフガング・ハッツ)氏といった同グループの技術トップがそろい踏みで、eモビリティの将来を語ったのも重要な出来事だった。
「内燃機関は自動車技術の主役であり、その燃料消費量の削減に力を注ぐことは重要です。一方で、急速な変化ではないものの、各国での規制対応や企業の社会的責任に向けて、eモビリティも重要な役割を占めるようになっているのは明らかな事実です。フォルクスワーゲングループでは、幅広い可能性を考えて研究開発を進めていますが、市販車として販売できるめどが立つまで声を大にして喧伝(けんでん)することはありません。しかし、化石燃料の価格が高騰する中、一般の人々が入手可能な価格帯で手に入れられるeモビリティの可能性を模索し、市場に投入できる段階まで技術やコストの両面で開発を進めることは、フォルクスワーゲングループにとって重要な命題です」
eモビリティの課題はもちろん、高コストであることだ。今回、フォルクスワーゲンのe-up! で2万6900ユーロ(約355万5000円)と、市販できる段階まで価格水準を下げられたことが、大々的なeモビリティの発表につながった。一方、e-up! を100km走行させるのに必要な電気代は3.02ユーロ(約400円)と、ガソリン価格が1l当たり200円という欧州の現状を考えると、燃費面では特にEVのメリットが際立つ。性能面を見ると、最高出力60kW、最大トルク210Nmを生むモーターを車両前部に搭載しており、最高時速は130kmである。
アウディのA3 eトロンは、50kmのEV走行が可能なPHEVで、1.5l/100km(66.7km/l)の低燃費と35g/kmの低CO2排出量を達成し、2014年中に発売される。その後、同じパワートレインを搭載するeゴルフが続く。ポルシェのパナメーラS eハイブリッドは、306kW(416ps)の大出力と最高時速270kmを誇ると同時に、36kmのEV走行と3.1l/100km(32.3km/l)という低燃費を両立する。
高級車、二輪車、商用車といった全方位でブランドを傘下に収め、低燃費の内燃機関の研究開発に心血を注ぎつつ、将来きたるべきeモビリティでも市販のめどを立てたフォルクスワーゲングループ。2018年に世界ナンバーワンを目指すに当たっての布石は全て投じられた感がある。
川端由美(かわばた ゆみ)
自動車ジャーナリスト/環境ジャーナリスト。大学院で工学を修めた後、エンジニアとして就職。その後、自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開。カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の他、国土交通省の独立行政法人評価委員会委員や環境省の有識者委員も務める。
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