少品種大量生産から多品種少量生産へ――白鳥製薬は市場環境に対応するために多品種少量生産への脱皮を図ろうとしていた。限られたリソースで拡大する製品ポートフォリオを評価するためにはシステム導入が必要になる。しかし、白鳥製薬には約5年前に基幹システム導入を試みて失敗した苦い記憶があった。
白鳥製薬は1916年創業で、もうすぐ創業100周年を迎える老舗の製薬企業だ。創業者の白鳥與惣左衛門氏が輸入に頼ってきたカフェインの国産化に成功し、事業を開始した。現在でも医療用、飲料品用含めて、国内のカフェイン市場では大きなシェアを獲得しているという。しかし、時代と共に主力製品の入れ替えを行ってきたが、主力製品頼みだった過去からの脱皮が近年の白鳥製薬にとっての課題になっていた。
製薬業界は、現在変化の波にさらされている。新興国企業の日本進出などが進む他、製薬メーカーが原薬を安い新興国から輸入するケースが増え、価格競争が激化している。また、2005年の薬事法改正により、受託(委託)製造が容易になり、生産能力をどう活用するか、ということを戦略的に決められるようになった。
創業:1916年5月
資本金:9500万円
社員数:150人
年商:50億円
本社:千葉県習志野市茜浜2-3-7
事業内容:医薬品原体・医薬品製剤の製造、各種化学品の製造、食品原料の製造、医薬品、各種中間体受託研究及び製造
Webサイト:http://www.shiratori-pharm.co.jp/
これらの環境の変化を背景に、同社では従来少品種大量生産だった事業体制から、多品種少量生産への移行を推進。製品ポートフォリオを拡大し、製品個々の原価を確認しながら、事業全体のバランスを取る方針を決めた。
白鳥製薬 専務取締役で創業者のひ孫に当たる白鳥悟嗣氏は「当社は約10年前には医薬品原薬一品目で売上高の50%、利益の90%を占める状況だった。しかし事業環境が変わり、現在は最も売上高が大きな製品でも全体に占める比率は10%以下になっている」と語る。
多品種少量生産を行う上で重要になってくるのが、増えた製品個々の個別採算の管理だ。白鳥製薬は千葉工場、草加工場の2つの工場を保有しているが、ほぼフル生産の状況が続いているという。収益性を高めるには利益率の高い製品の比率を高めていくことが必要だ。そのためには個々の生産品目の収益性を把握しなければならない。
「10年前の状況では特定の主力製品の原価管理さえできていれば、ある程度の収益性の把握は行えた。しかし多品種少量生産の体制では、人手でやるには限界がある。またスピードが要求される中、できる限り入力した情報を早く活用できるような仕組みが大事だ。そのためには新しいシステムによる可視化が必要だと考えた」と白鳥悟嗣氏は話す。
しかし、新システム導入に向けては心理的な抵抗もあったという。約5年前に情報システムの導入に失敗したという苦い経験があるからだ。当時はシステム部門が主導して新たなシステム構築に取り組んだが、製造現場などとの合意がうまく取れなかった。また責任の所在も不明確で、結果として使われないシステムになってしまったという。
ただ従来のシステムは、20数年間修正しながら使ってきたシステムで老朽化が進んでいた。システム間のデータ連携が行えず、多重入力の手間が現場業務の大きな負担となっていた。また、システム構築も属人化し、業務フローも既存システムに応じたものになっているため、柔軟な業務変更などが行えない状況になっていた。どこかで新システムへの切り替えが必要であることは明らかだったが、なかなかそこに踏み切れないという状況が続いていた。
そこで、新基幹システム統括責任者としてリーダーシップを発揮したのが白鳥悟嗣氏だ。白鳥悟嗣氏は、大学卒業後三菱商事に入社し3年前に白鳥製薬に入社。三菱商事在籍時にはSAPのシステム構築に携わった経験があったという。
「過去のシステム導入の失敗については入社前だったので分からない点もあるが、責任が不明瞭だった点も大きかった。そのため、私を責任者として役割を明確化し、システム部門や現場、総務・経理などと連携する仕組みを構築していった」と白鳥悟嗣氏は語る。
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