若手ファッションデザイナー ユイマナカザト氏による、架空のスポーツ競技をテーマとした作品群「YUIMA NAKAZATO 2014 コレクション」の一部で、ストラタシスのハイエンド3Dプリンタが活用された。人の筋肉を模した複雑な3次元モデルは、フリーランスデザイナーのスン・ジュンジェ氏が作成。
2013年7月25日、若手ファッションデザイナー ユイマナカザト(中里唯馬)氏による、作品群「YUIMA NAKAZATO 2014 コレクション」の発表会が開催された。ナカザト氏は過去、レディー・ガガやファーギーといった有名アーティストの衣装デザインも手掛けた。
今回のテーマはバスケットボールを進化させた架空競技を表現すること。通常のバスケットコートの約10倍はあるスタジアムをバイクに乗った屈強な選手たちがボールを奪い合って掛け回り、約40mの高さにあるゴールにシュートを決めるという競技だ。選手の姿勢や動きは和式馬術を参考にしたということだ。
ナカザト氏がデンマークを訪れた際、武器博物館で日本の甲冑(かっちゅう)の展示を見たことが発想のきっかけとなったという。その後、「スポーツマンシップ」をテーマにしたデザインがスタート。リサーチを重ねてバスケットを基にした競技をできるだけリアルに想像しながら、選手のコスチューム、選手が乗るバイク、広大なスタジアムなどのデザインを作り上げていった。その作品の一部で3Dプリンタの造形物が使われたことが明かされた。
造形するに当たり、3次元モデルを作成したのは、3次元CGを得意とするフリーランスデザイナーのスン・ジュンジェ(孫君杰)氏、造形に協力したのは3Dプリンタベンダーのストラタシス。
架空競技に登場する選手たちがまとうビブスは、「自らの肉体を極限に駆使すること」を象徴するように、「人の筋肉・筋繊維」や「数字(ゼッケン)」をイメージした複雑に入り組んだデザインになっており、3Dプリンタのハイエンド機種「Connex500」(ストラタシス)で造形された。使われたのは「Tango」というラバーライク材料(ゴムのような材料)で、着色は造形後に施している。
筋繊維の模様の直径は、0.1mm程度。詳細かつ複雑なモデリングは、スン氏が3Dサーフェスモデラーの「Rhinoceros」を使って作成した。1チームを構成する5人分のビブスの設計・試作は約4カ月で完了したとのこと。
コスチュームの他には、スタジアムのミニチュア模型も3Dプリンタを使って作成した。スン氏が3DデータをRhinocerosで製作。Connex500で黒色と透明の樹脂を同時に造形した。デザインは、スタジアムというよりは、荒野のような感じだ。
ナカザト氏によれば、ところどころ大きく隆起した山は約10mという設定だ。広大なスタジアムを走るために必須であるバイクの製作においては、実際のバイクや自動車などの部品が使われた。こちらは3Dプリンタ製ではない。
ストラタシスによれば、医療や製造業だけではなく、デザインやファッション業界においても3Dプリンタの事例はよく見られるという。同社日本法人のマーケティング・マネージャの吉澤文氏はその一例として、マサチューセッツ工科大学(MIT) メディアラボのネリ・オクスマン教授の作品、パリのファッションショウ「ランウェイ」での事例を紹介した。
実際に服や靴の製作などで3Dプリンタが本格的に活用されるのはまだ先の話だろう。ただ、ナカザト氏はときに「明日のアカデミー賞授賞式用のドレスを作ってくれ」というような相談を受けることがあるそう。現状の技術では難しいが、3Dプリンタがこの先もっと進化して造形材料が生地(布)に近くなり、服も作れるようになれば、このような注文に対応できるようになると、3次元データ技術の発展に期待しているようだ。
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