クアルコムとIHIが見据えるEV向けワイヤレス充電の未来和田憲一郎の電動化新時代!(3)(2/3 ページ)

» 2013年06月18日 07時30分 公開

ケース2:IHIの場合

 IHIは、筆者の三菱自動車時代に、WiTricity、IHI、三菱自動車の3社で、EV向けワイヤレス充電システムの共同開発を進めることに合意していただいたパートナー企業である(関連記事:広がる非接触充電、三菱自動車が開発始める)。今回は3社の提携に触れない範囲で、IHIの総合開発センターでプロジェクト部 主幹研究員を務める新妻素直氏にお話をうかがった。

・どのような背景からワイヤレス充電、特にWiTricityの開発する磁界共鳴方式に関心を持たれたのか

 もともとIHIは重機や機械物が得意な会社である。その中には電気システムも含まれており、過去には産業機器向けで電磁誘導方式のワイヤレス充電を研究したこともあるため知見があった。日頃から、マサチューセッツ工科大学(MIT)とは付き合いがあり、その中でMITからスピンアウトしたWiTricityの磁界共鳴方式とのつながりを得た。IHIとしては、ワイヤレス充電は研究で終わらせるものと捉えてはおらず、当初からビジネス展開すること想定していた。

IHIが考えるEV向けワイヤレス充電のイメージの一例 IHIが考えるEV向けワイヤレス充電のイメージの一例
IHIのワイヤレス充電試験車両 IHIのワイヤレス充電試験車両

・ビジネス展開の想定分野は、EVやPHEVだけか

 EV向けのワイヤレス充電では、車両側/グラウンド側とも装置の製造/販売を視野に入れている。車両側は自動車メーカーに納入することになるが、グラウンド側は、当社から一般顧客に直接供給したり、住宅メーカーなどの他社に供給したりすることが想定される。EV向け以外では、産業機器をはじめIHIで手掛けている従来商品に適用することも検討している。

・ワイヤレス充電には幾つかの方式が存在する。磁界共鳴方式以外も検討しているか

 過去に電磁誘導方式を評価したこともあるが、高効率の条件で、電力を送れる距離が短いことが課題だろう。自動車のワイヤレス充電では、車両側とグラウンド側の装置の間に一定の間隔が必要になるし、車両の進行方向に対して左右にズレることも多い。距離が離れていても、高効率で電力を送れる磁界共鳴方式を選択した。自動車は磁界共鳴方式で進めるものの、IHIグループはいろいろな製品を手掛けており、宇宙関係ではマイクロ波送電を研究している部門もある。

・車載側とグラウンド側の装置では、設置する基準(強度要件など)が異なるのか

 グラウンド側は、必ずしも車載側の延長ではない。最初はセット販売されるものの、次第にグラウンド側の単体販売が始まる。グラウンド側の耐久性や信頼性などの要件はまだはっきりしていないが、住宅以外では道路に設置するとなるとさらなるノウハウが必要になるだろう。IHIでは橋などの公共インフラも作っているので、むしろ腕の見せどころになるかもしれない。そうは言っても、設置基準はIHIのみで作成するものではない。専門委員会などで協議することが必要になるのではないか。

・現在考えている商品サイズはどのようなものか

 EV向けのワイヤレス充電システムに用いる装置のサイズは、現時点では車両側/グラウンド側とも50cm角程度。車両側は、さらに小さくする必要があるため改良を進めている。グラウンド側の電力変換装置を含めたコントローラは、エアコンの室外機程度のサイズになるだろう。最近小型化が進んでいるこれらの機器と同様に、家庭で無理なく導入できる形を目指している。

試験車両に機器を取り付けた状態 試験車両に機器を取り付けた状態

・V2XのようにEVから住宅などに給電することも開発範囲に入っているか

 V2Xも想定はしているが、最初はあくまでEVやPHEVへのワイヤレス充電であり、その形をクリアにすることから始まる。電力供給を双方向に行うのは、テクノロジー的には可能な範囲だと考えているが、法整備の問題も含めてもう少し時間がかかるであろう。

・日本政府からの支援(例:実証試験の特区指定、補助金など)はどう考えるか

IHIの新妻素直氏 IHIの新妻素直氏

 現在は、電波法に基づく高周波利用設備の許可が必要であり、実証試験を行える場所が限定されてしまう。車両側/グラウンド側の装置の運用を多様な形で確認するには、規制を緩和できる特区に関連各社が集まって実証試験できる環境は有用であろう。

 IHIはワイヤレス充電システムの商品化(車両側/グラウンド側の装置)に既に名乗りを挙げていることもあり、製品の具体的構造も固まりつつあるようだ。ただし、国際規格の標準化やガイドラインが検討途上にあるため、それらをにらみながらの開発になる。新妻氏が言われたように、公共施設を数多く手掛けているIHIであるからこそ、グラウンド側の製品開発に同社の経験が生きるかもしれない。

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