PTCは2013年5月、トランスミッション大手のジヤトコがALMツール「Integrity」を採用したと発表した。ISO 26262対応での有用性を評価されているIntegrityだが、ジヤトコの主な採用理由は、グローバルにおける車載ソフトウェアのデータ管理の一元化にあった。
自動車向け機能安全規格・ISO 26262への対応に向けて注目されている、要件管理や構成管理、変更管理などによって開発プロセスのトレーサビリティを確保できるALM(Application Lifecycle Management)ツール。
このALMツールの中でも、国内大手ティア1サプライヤへの採用が広がっているのがPTCの「PTC Integrity(以下、Integrity)」である。2011年5月にPTCがMKSを買収したことにより、「MKS Integrity」から名称を変更したが、その後も順調に事業を拡大させている。直近の事例では、2013年5月に、トランスミッション大手のジヤトコが採用したという発表があった(関連記事:ジヤトコ、グローバルのソフトウェア開発基盤としてPTCのALMツール「Integrity」を採用)。
ジヤトコからPTCに、Integrityの導入に向けた評価依頼があったのが2012年春ごろのこと。同年8月には、評価作業に必要なデモシステムを構築するための詳細なフローなどを含めた正式な依頼が入った。デモシステムを構築し、ジヤトコの環境への組み込みを終えたのが10月である。その後、競合ツールベンダーとの比較評価が行われるはずだったが、実際に比較評価が始まるまでさらに1カ月以上待たされることになった。
PTCジャパンのPLM/ALM事業でIntegrity営業技術部長を務める富山義明氏は、「これは競合のツールベンダーによるデモシステムの構築と組み込みがなかなか進まなかったためだ。Integrityは、要件管理や構成管理、変更管理といったソフトウェア開発プロセスにおけるデータ管理に必要な機能を1つのツールで実現する『シングルアーキテクチャ』を特徴としているので、デモシステムの構築にはあまり時間がかからない。一方、競合のツールベンダーの場合、それぞれの管理機能に対応する異なるツールを組み合わせてデモシステムを構築する必要があったため時間がかかったようだ。他社ツールとの比較評価の際に、われわれが待たされた事例は他にも多くある」と語る。
ジヤトコは、車載ソフトウェアの開発プロセスにおけるデータ管理について、これまではファイルサーバと一般的なバージョン管理システムを組み合わせて、部署ごと対応していたという。もちろん、国内と海外の開発拠点の連携も実現できていなかった。
今回のIntegrityの導入によって、車載ソフトウェアに関するデータ管理について、国内外の開発拠点を含めたグローバルでの一元管理を行い、開発の手戻り削減や効率向上の実現を目指している。現在は、Integrityを用いたパイロットプロジェクトによる試験運用を行っており、ジヤトコの開発環境へのフィッティングを進めている段階である。
Integrityは、要件管理や構成管理、変更管理を単一のツールで一括して行えることもあって、ISO 26262対応では特に有効だという評価も多い。しかしジヤトコの場合、「主な採用理由は、あくまでグローバルにおける車載ソフトウェアのデータ管理の一元化にあった。もちろん、ISO 26262対応に向けたIntegrityの活用も導入のロードマップには入っている」(富山氏)という。
電動パワーステアリングやブレーキシステムのサプライヤの場合、ISO 26262の安全要求レベルで最高のASIL-Dが求められることもあって、ISO 26262対応がIntegrityの採用理由のトップに来る。しかし、トランスミッションはASIL-Dよりも安全要求レベルが低い。このこともあって、ジヤトコでは、グローバルにおけるデータ管理の一元化が優先されたようだ。
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