実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第19回は、協調設計とCADデータの重要性や、設計を並行して進めるコンカレントエンジニアリング、PDMとPLMなどについて解説する。
本連載は「エレクトロニクス実装技術」2012年10月号の記事を転載しています。
LSIの集積度が高くなり、信号のスイッチング速度が高速になるにつれ、LSIの同時スイッチングノイズ(SSOノイズ)の問題が大きくなってきました。これまで伝送線路での信号波形の解析を行うSI (Signal Integrity)解析が行われてきました。しかし、SSOの問題が大きくなるにつれ、SIとは別に同時スイッチングノイズによるLSIの電源供給ラインの変動を解析する PI(Power Integrity)解析の必要性が高くなってきました。
PI解析では基板上にある電源回路(DC-DCコンバータ)から、電源の平滑コンデンサ(バルクコンデンサ)を経て、LSI周辺のバイパスコンデンサ、パッケージ内の配線やパッケージ内のバイパスコンデンサそしてLSIの電源/グランドのダイパッドへと続く電源供給ネット(PDN=Power Delivery Net)の解析を行います(図1)。
PDNは基板の電源/グランドプレーンや回線の形状、コンデンサの特性や配置位置、パッケージピントの接続情報が必要となります(図2)。
基板情報のほかに、LSIパッケージ内の基板情報も必要です。部品ピン(Ball)とパッケージ内基板の接続の特性、部品ピン(Ball)からICパッドまでのパッケージ内基板の電源/グランド配線の特性や物理的配線形状、パッケージ内にバイパスコンデンサを配置してある場合(図3)にはコンデンサの特性などの情報です(図4)。
PI解析にはLSIの情報も必要です。LSIの消費電力(消費電流)の値や信号が同時スイッチングする時の電流の変化量とその速度などの情報です(図5)。また、パッケージ内基板とICチップ(ダイ)の間の電源/グランド接続数や接続の特性なども重要です(図6)。
このように、PI解析ではLSIチップ、パッケージ、基板の情報が必要になりますが、設計は、おのおの、IC設計、パッケージ設計、基板設計、回路設計と担当者も担当部門も(多くの場合、会社も)異なります。このように異なる部門が非常に密接に必要なデータを共有しながら行う設計を協調設計と呼びます。
この時、例えばパッケージ設計と基板設計を共通のデータとして一体解析を行えば、改善策なども一体で検討できます。しかし、基板とパッケージのデータをおのおのブラックボックス化して、例えばSパラメータなどの特性だけのデータとして受け渡しを行う場合もあります(図7)。このような場合、改善策なども具体的な検討が行えず、おのおのの設計がおのおの改善策を考え、特性の再抽出を行いながら、試行錯誤的に検討しなければなりません。
PI解析だけではなくEMI解析や熱解析など、協調設計を行うことで、開発効率が向上する設計は多くあります。
協調設計では、各部門が密接な関係を保ち、できるだけデータを共有して開発を進めると効率が向上します。このため、各ツール間で共通フォーマットを介したデータ変換などの手法での設計の受け渡しが行われます。協調設計ではこのように同一の対象に対して異なる部門が共同して各設計間にわたる問題解決を図ります(図8)。
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