今回のパワートレインにおける小規模変更の主な中身としては、サージタンクの形状変更、マフラーの変更、ミッション内部構成部品へのWPC処理*1が施され、小規模変更ながら実測値として前年比10馬力の向上を実現している。
*1:表面処理の1つで、疲労強度と摺動(しゅうどう)性の向上を実現できる
そして今年の目玉である「トラブルの芽をつぶす」ための変更点としては、ハーネス接続部に防水カプラを適用したことが挙げられる。
設計では3次元CAD(CATIA)を使用し、解析ソフトウェアは「ANSYS」を活用している。ただし解析ツールは1つのヒントとしての活用にとどまり、あくまでも現物での検証・テスト走行を繰り返すことで実績を積み重ね、信頼性を向上させているという。
京都工芸繊維大学をあえて「繊維」という視点で見ると、「組紐(くみひも)カーボンを内作できる」という大きな強みを持っている。軽量化を促進したいフォーミュラの製作においては大きなアドバンテージである。
ただし組紐カーボンを内作できるからといって、むやみに多用しているわけではない。特に金属との溶接が非常に大変なため、以前は使用していたフレームやアーム類への組紐カーボンの使用をやめ、スチールやアルミで製作した。
フォーミュラチームにおいて、車両の完成度が大きなウェイトを占めることは当然であるが、それと同レベルで重要なのがドライバーである。どれだけ完成度の高い車両を製作できたとしても、乗り手が高いレベルにいなければフォーミュラチームとして結果を残せない。非常に車両の完成度が高かった今回、実はドライバーも非常にレベルが高かったのだという。
既に学生フォーミュラでの参戦4年目となるドライバーである橋本優さんは、大会の経験値はもちろん、以前よりカート経験などを積み重ねた実力派である。
優勝という最高の結果となった2012年大会だが、2位の大阪大学との得点差は1000点満点中わずか16点という結果であった。
種目ごとの得点に着目すると、とにかく動的種目において圧倒的な差を付けていることが分かる。もちろん車両の完成度があってのことだが、結果を残せる状態にまで車両を作り込むことができるかどうかは、ドライバー次第なのである。
走行フィーリングや問題点を忠実にメカニックに伝える能力がなければ、いつまでたっても車両の完成度は上がらない。
一般的にはあまり認識されていないが、世界の第一線で活躍するドライバーは車両セッティングに対するフィードバック能力が極めて高い。いや、そうでなければ第一線で活躍はできないのだが、ただ走るだけではなくて自分にあったセッティングを的確に進めていく能力がドライバーには求められるのだ。そして言うまでもなく、ドライバーからの的確なフィードバックを基にしてベストなセッティングを予測し、形にできるメカニックも重要である。
つまりレーシングチームは運転がうまいドライバーだけでは成り立たないし、腕が立つメカニックだけでも成り立たない。
今大会のグランデルフィーノは、個々人の能力が高かったのはもちろんだが、チームの戦略に沿ってチーム全体の歯車がうまくかみ合ったことが、優勝を勝ち取った最大の要因であろう。
最後に、グランデルフィーノより2013年大会に向けた意気込みを語ってもらった。「連覇に向けて、既に車両製作が着々と進んでいます! 今回同様に、早い時期からテストを実施する予定です。ただ、今まで頼りにしていたドライバーが卒業してしまうので、ドライバーの育成が目下の課題です」。
さらなる車両の熟成を進める京都工芸繊維大学フォーミュラチーム「グランデルフィーノ」の安定した強さに対し、連覇を阻止しようと多数の強豪校が虎視眈々(こしたんたん)と優勝を狙っている。一体どこが優勝するか全く予測できない、次回の第11回大会が今から楽しみである。
山本 照久(やまもと てるひさ)
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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