製造ITは品質改善に役立つのかモノづくり最前線レポート(34)(4/4 ページ)

» 2013年02月28日 07時00分 公開
[水野操 ニコラデザイン・アンド・テクノロジー/3D-GAN,MONOist]
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トライアル&エラーで不良を解析する

 解決すべき問題の絞り込みが容易ではないケースももちろん存在する。

 その一例が「はんだぬれ不良」である。横河マニュファクチャリングでは基板の多品種大量生産をしている。収集したデータからはんだ付けの不良を調べると、「ぬれ不良」が多いことが分かった。これは困った事態だ。なぜなら、ぬれ不良は原因が多岐にわたるため、解析が難しいからだ。部品不良やはんだ印刷量不足の他、工程異常、設計要因によるものなどさまざまな原因が考えられる。解析が難しいため、新システム導入以前は解析に着手できていなかったほどだ。

 新たにデータを取り込み、環境が整ったとき、同社は図4に示したような4つのステップで解析を進めることに決めた。

図4 ぬれ不良の要因を探る 出典:ワイ・ディ・シー

 ステップ1では過去3カ月間の検査データと電子部品管理データベースを結び付け、電極ごとのぬれ不良を部品単位で集計した。しかし、特に大きな違いが見られなかった。

 そこでステップ2では、はんだ印刷時のはんだ体積とぬれ不良を結び付けた。このステップでは5000万件にも及ぶデータを結合する必要がある。従来90分かかっていた処理が新システムでは約1分まで短縮できたことで必要なデータの可視化が容易になったという。

 ステップ3では生産日ごとに面内のはんだ体積ばらつきを3次元グラフ化して確認した。しかし、生産日ごとのバラ付きはなく、装置要因や作業者要因は関係がないことが分かった。

 ステップ4では抽出した部品データとCADのフットプリントを結合した。その結果、古いCAD設計情報(シンボル)を使っていることが原因だと分かった。本来であれば、印刷するはんだエリアの位置や大きさをぬれ不良改善のために変更した新しいCAD設計情報を使わなければならなかったにもかかわらず、CAD設計情報が更新されていなかったことが原因だったのだ。ムダな分析工数を用いることなく突き止められたことになる。

 どのステップでも異なる巨大なデータベースを連結、集計する作業がカギとなっている。ここを改良できたため、品質改善のプロセスに要する時間を従来の10分の1にまで短縮できた。これが、不良の原因解析や潜在的要因の特定、さらには効果的な対策を打つことにつながっている。

 ステップ4によって具体的なデータと根拠を手に入れることができたため、設計者への対応依頼が従来と比べてスムーズに進むという思わぬ改善も進んだ。

品質目標とともに「風土」の改善も実現

 自分たちの打つ対策が効果的に成果を上げることで、単に品質が改善するだけではなく、それをさらに進める社内風土の改革も実現する、ITによる環境の整備を通じて。

 このような取り組みの例として善入氏が紹介したのは、自動車用無段変速機(CVT)の開発・製造・販売を行うジヤトコである。同社の商品のうち、最もグローバルで量産規模が大きいものは月産約10万台に達する。つまり、1日アクションが遅れると5000台/日の改善チャンスがなくなってしまうことになる。従来の改善方法は現品回収だった。これでは1カ月から3カ月を要する。改善チャンスの損失は大きかった。

 このような製品の市場初期不具合を減らしていくには、原因を推定をするために1件の不具合でもすぐに心当たりを探して、アクションにつなげる必要がある。そのためにはどうすればよいだろうか。変更点情報や工程管理データを瞬時に検索、抽出、連結できなければならない。

 ところが従来は不具合の内容が分からず、現品を待っていたため迅速な対応はできなかった。そこで、同社はグローバルかつ全商品を対象とした加重平均値を利用し、原因を推定できる環境を作り上げた。推定原因から対策効果を予想できるようになったため、品質保証のコミットメントを達成できた。

 新しい環境の構築によって、異なる関連した工程のデータが瞬時に連結できる他、対象範囲の合否を即座に可視化できることで、関連工程データを目の前で比較分析できるようになった。このため対象範囲の特定を素早くでき、判断やアクションが迅速に可能になったということだ。

 このような変化は、現場側の動きを生むことになる。データをもっと有効に使うために必要なデータをより多く収集したいというニーズが生まれた。例えば計測のために設備メーカーのお任せ仕様ではなく、自社で必要と思われるセンシングを考えるようになるという変化が起きた。さらに、標準作業書の改訂という形で生産現場の仕事の中に取り入れるといった変化が現場サイドから起きたのだ。

暗黙知の形式化がグローバル展開のポイント

 今回、善入氏が紹介した事例は、国内のものであったが、どちらの会社の事例でも必要なデータを収集し、これまでバラバラであったものをつなげることが改善に結びついた。経験や勘といった暗黙知ベースの対応を形式化し、関係者が論理的に認識できるようにしたということだ。

 迅速かつ明確に、的確な対応をとり、品質を向上できるようになったばかりでなく、情報を受け取った人たちが自らの責任で考え、一層の改善をはかる試みを自主的に行うなどの変化も起きている。

 グローバル展開に当たっては、このようにシンプルに分かりやすく暗黙知を形式化することが重要であり、加えて現場の担当者が自分で考え、応用が効くように実施することがポイントであることが分かる。

改革に使用したソリューション

 ワイ・ディ・シーでは、このような改革を実現するための統合品質解析ソリューション「YDC SONAR」を提供している。YDC SONARは3つの要素からなる。情報をストアする統合データベース、それらのデータを解析するためのツール、さらに業務上の問題点を解決し、要求を実現するための情報システムだ。

 多様な形式のデータ、巨大スケールのデータを登録可能であり、異種・点在データの連結が可能になるという。解析機能も充実しており、グラフを作り現状の把握を行い、抽出したデータから傾向を把握し、要因別の解析ができるように作られている。操作手順の保存、流用、改変がたやすいため、ベテラン技術者から若手技術者へのスキル移転もやりやすくなっているという。

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