日産自動車は、ステアリングホイールによる操舵とタイヤの切れ角の変更を独立に制御できるステアバイワイヤ技術を開発した。自動車を、機械式ステアリングの制約から解放するこの技術にはどのような可能性が詰まっているのだろうか。
日産自動車は2012年10月17日、ステアリングホイールによる操舵とタイヤの切れ角の変更を独立に制御できる次世代ステアリング技術の実用化に成功したと発表した。いわゆるステアバイワイヤと呼ばれている技術である。北米市場向けの高級車ブランド「インフィニティ」で、2013年末までに発売する車両に採用する予定である。
現在市販されている自動車のステアリングシステムは、ドライバーのステアリング操作によって発生する回転力を、機械的に前輪の車軸に伝えることによってタイヤの切れ角を変更し、進行方向の変更などの操舵を実現している。最近では、モーターの動力を使ってステアリング操作に必要な力をサポートする、電動パワーステアリング(EPS)の採用が広がっている。これらのステアリングシステムは、ドライバーが手にするステアリングホイールと前輪の車軸が、ステアリングシャフトと呼ぶ部品によって機械的に接続されている。
これらの機械式ステアリングと異なり、今回日産が発表したステアリング技術は、ステアリングホイールの回転量や回転力などをセンサーで検知し、それらのセンサー情報を基に算出した制御信号を、ワイヤーハーネスを介して、タイヤの切れ角を制御するモーターに伝送する。ステアリングシャフトではなくワイヤーハーネスを使ってステアリング操作を行うことから、ステアリング(ステア)バイワイヤ(Steering by Wire)と呼ばれている。
ステアバイワイヤ技術を実用化できれば、ステアリングシャフトや、ステアリングシャフトと車軸をつなぐギヤボックスなどが不要になるので、車両の軽量化や車室内スペースの拡大が可能になる。さらに、ステアリングホイールを飛行機の操縦かんのようなレバーに変更したり、車室内におけるステアリングホイールの設置位置を自由に決められたりするので、車両デザインの自由度も大幅に高められる。
ただし、ステアバイワイヤ技術は、制御信号の伝達に何らかの不具合が発生した場合に、全くステアリング操作を行えなくなるという問題がある。機械式ステアリングの場合、EPSのモーターの不具合でステアリングホイールの操作が重くなるといったことはあるものの、機械的な接続が確保されていればステアリング操作が完全にできなくなる可能性は極めて低い。ステアバイワイヤ技術を実用化するためには、システム内に何らかの不具合が発生しても、最低限ブレーキをかけて停止するまでステアリング操作が行えるような冗長性を確保する必要があるのだ。
これらの事情から、多くの自動車メーカーは、コンセプトカーや試作車などでステアバイワイヤ技術の開発状況を公開することはあっても、量産車両への搭載については慎重な姿勢を示していた。
数ある自動車メーカーの中でも、ステアバイワイヤ技術の開発に積極的な姿勢を示してきたのが日産である。「東京モーターショー」では、「PIVO 2」や「ランドグライダー」などのコンセプトカーを使って、ステアバイワイヤ技術の可能性をアピールしている。
さらに2010年4月には、国内の車載ソフトウェア標準化団体であるJasParの開発成果として、ステアバイワイヤ技術を用いたステアリングシステムを搭載する「フーガ」を公開した(関連記事1)。
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