2011年に開催されたPlanetPTC Liveは「Creo 1.0」の正式リリースなど製品に関するニュースの多いイベントであった。しかし、2012年は「Creo 2.0」リリース後の開催だったこともあり、製品そのものよりもPTCのビジョンやユーザーなどに焦点を絞ったイベントとなった。
全体を通じて感じられたのは、PLMソフトウェア「Windchill」を中心に、製品の製造に関わる全ての要素をPTCが包括的にサポートしようとするビジョンである。PLMベンダーであるPTCが提供することから、CADのみならず、SCM、SLM、ALMについても、より製品との親和性が高いシステムが実現可能だとしている。
PTCといえば「Creo Parametric」をはじめとする3次元パラメトリックCADをイメージする人は多いだろう。しかし、このツールを使いこなすためには、3次元パラメトリックCADについて相応のスキルが必要になる。それに構想段階で、2次元CADを利用するユーザーも少なくない。
そこでPTCでは「Creo Layout」の提供によって、パラメトリックな拘束が必要ない、2次元構想設計を支援する。もちろん、このデータはWindchillで管理され、3次元設計に引き継ぐことが可能だ。
さらには、ラフスケッチを描くための「Creo Sketch」や、ダイレクトモデリング3次元CAD「Creo Direct」とも連携可能である。つまりPTCはソフトウェアによって、構想設計するユーザー層を広げようとしたのである。
2011年のイベントでも話題になった「Windchill SocialLink」は、ユーザー同士のコミュニケーションを支えるツールだ。FacebookやTwitterのようなSNS(ソーシャルネットワークサービス)の機能を、社内のコミュニケーションに利用できる仕組みだ。特に、昨今のSNSにおける情報収集に慣れた世代には、有効なコミュニケーションツールとなることが期待される。
さらに、2011年に買収が完了したMKSの「Integrity」の統合はますます進行しているということだ。ハードウェアのみならず、製品に組み込まれるソフトウェアもWindchillで管理可能となる。
Windchillについては、2013年1月にリリースが予定されている「Windchill 10.1」のメンテナンス・リリースにおいて、中堅企業向けソフトウェアを追加する予定であると、PTC PLM/SCM担当執行副社長であるブライアン・A・シェパード氏が明らかにした。
「通常PLMシステムの導入には、6〜18カ月の期間がかかります。しかし、中堅企業向けのWindchillであれば、業種ごとに多少の差異はあるものの、1〜6カ月に短縮できます」(シェパード氏)。
しかし、中堅企業向けに機能を落としているわけではない。中堅企業向けのWindchillは、業種ごとにあらかじめ必要となる機能を搭載したオプションを用意し、ユーザーに選択してもらう方式を取るという。ちなみに、この製品がフォーカスする中堅企業とは、「売上高1億〜10億米ドルの企業」としている。
開催地であるオーランドは米国でも屈指の観光地として知られている。近隣には著名なテーマパークやショッピングモールがあり、家族連れの参加者も少なくなかった。また、カジュアルな服装の参加者も多く見られ、会場となったローゼン シングル クリーク ホテルでは、カフェやロビーなどあちらこちらでユーザー同士、あるいはユーザーとPTCの担当者がざっくばらんにコミュニケーションしている様子が見受けられた。
「Creo Layout」は、欧州の自動車メーカーの強い要望に応えて作られた製品ということであるが、会場で見られたようなユーザーの対話の中から、新たな製品や機能のアイデアが生まれる可能性は高い。このような観点からも、非常に価値のあるユーザーイベントであるといえそうだ。
北原静香(きたはら しずか)
フリーランスライター。
OS関連からモバイル・携帯電話まで、幅広いジャンルで執筆活動を行う。現在は、エンジニアとしての実務経験を生かしたエンタープライズ分野の記事を数多く手掛ける。
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