中国は特許大国になり得る? 日本企業が採るべき対応は中国の知財動向を読む(1)(2/2 ページ)

» 2012年07月23日 11時00分 公開
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中国権利者の権利維持率

 特許出願助成・奨励制度の後押しもあって、中国出願人の出願件数が激増していることは上述した通りです。一方で、その権利維持率は外国権利者に比べてあまり高くないことも知られています。

 図3〜5は、中国権利者および外国権利者の特許権、実用新案権、意匠権の維持率を示すグラフです。特許権については、出願から7年および10年経過した時点で消滅している割合は*、外国権利者についてはそれぞれ28%、57%なのに対し、中国出願人は57%、90%になっています。

 また、実用新案権については、出願から3年および5年経過した時点で消滅している割合は、外国権利者についてはそれぞれ19%、51%なのに対し、中国出願人は54%、82%になっています。また、意匠権については、出願から3年および5年経過した時点で消滅している割合は、外国権利者についてはそれぞれ15%、46%なのに対し、中国出願人は68%、91%になっています。


*図3において第7年または第10年までの各棒グラフを加算した値、以下、実用新案権、意匠権についても同様に算出。


 中国権利者の維持率が全体的に見て低いことから考えると、基本特許の比率や、参入障壁としての特許網の活用という面では、いまのところ外国権利者に一日の長があり、特許出願の「量」についてはともかく、少なくとも特許権の「質」においては中国が特許大国といえるようになるまでにはまだ少し時間がかかるように思います。

 ただし、ここで注意していただきたいのが、中国は、ごくごく一部の先進的な企業と「その他大勢」の発展途上の企業という産業構造を有しており、平均値だけをみていると、先進的な企業の動きを見逃してしまう虞があるということです。例えば、図3〜5のように、中国権利者全体で見ればその維持率は外国権利者に比べて低くなっていますが、中国の先進的な企業を個々に抽出して分析すれば必ずしもそうではない可能性があります。

FOXCONNなどの使う手法は要警戒

 また、実用新案権と意匠権の維持率が特に低いことについては、以下の2つの仮説が考えられます。1つ目は特許出願の助成金・奨励金が得られなくなった段階、またはハイテク企業認定を受けられなくなった段階で権利を放棄している(年金を納付しない)こと、2つ目はライフサイクルの短い製品について実用新案権および意匠権を積極的に活用していることです。

 1つ目についてはこれはまさしく「出願のための出願」といえるので、このような出願をしている中国企業についてはあまり注意する必要はないと思います。一方、2つ目については、例えば、FOXCONNのブランド名で知られる鴻海精密工業の中国子会社である富士康(昆山)電脳接挿件有限公司などがこのような方法を採っています。

 富士康(昆山)電脳接挿件有限公司は中国実用新案権の保有件数が最も多い企業で、ライフサイクルの短いコネクタ関係の出願について戦略的に中国実用新案を活用しています。このような企業には警戒する必要があると思いますし、日本企業も彼らの実用新案の活用方法を参考にできると思います。

 また、中国権利者の維持率が低いことを利用した日本企業における中国特許対策として、特許調査の際、「生死情報」(特許の効力が生きているかどうか)を活用することによって調査対象を絞ることが考えられます。また、特許権の維持率が高い企業は知財管理の意識が高い可能性が高いので、中国企業の知財管理を評価する1つの基準として=警戒すべき中国企業を抽出する基準として活用することが考えられます。

次回予告、訴訟大国中国

 以上、中国特許出願の現状および対策について私見を述べさせていただきましたが、近年の中国出願人による特許出願の増加に伴って、中国の権利者の権利意識は確実に高まっており、知財紛争の急増の原因にもなっています。

 人民法院が発表している統計データによると、2011年に中国の全国地方人民法院が受理した知的財産権民事事件一審件数は5万9612件(前年比138.9%)にも上り、これは同年の日本の知的財産権民事事件一審518件(前年比82.1%)の100倍以上にもなります。

 そこで次回は「訴訟大国中国」というテーマで中国における知財訴訟の状況について検討させていただきたいと思います。

筆者紹介

西内盛二(にしうち せいじ)

高知県出身、日本弁理士(2003年登録)。

2006年より中国特許事務所で中国知財実務に従事。現在、北京北翔知識産権代理有限公司の高級顧問。中国特許事務所で働く日本弁理士の視点から最新の中国知財情報を発信します。



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