ということでお2人の講演はあっという間に終わり、しかもその流れの中で既にインタラクティブなやりとりが始まるという理想的な状況の中で、パネルセッションへと突入しました。
今回のフォーラムに参加していた、SolidWorksユーザー会中部地区で世話人をしているハーモテックの森藤慎司氏の提案もあり、パネラー以外の参加者も自己紹介とともに解析の経験を発表し合うことで、議論もやりやすくなったと思います。このあたりも、インタラクティブですね。
今回の参加者には、「これから解析を本格的に試みていくので、そのためのヒントが得られれば」という方も少なくなかった一方で、「実際に作るものに対して、どうしてもうまく解析が反映できない(早い話が、『合わない』)ので、どうしたらいいだろうか」という具体的な悩みを抱えた方もいました。
森藤氏は、さすがユーザー会の世話人だけあって、自身のこれまでの解析ツールの経験を紹介しました。特に1人で設計事務所をやっている立場ですから、「絶対に失敗できない」という思いから解析を積極的に活用してきて、今では「よく解析を使わずに設計を進められるなぁ」という思いを持っているみたいです。
なるほど……、「解析は、リソースが限られていればいるほど有効だ」ということのようです。実機なら膨大なコストが掛かるところを、解析なら複数のオプションを短時間で安価に検討ができるわけですから。
――皆さんの自己紹介が一通り終わった後、本格的にディスカッションが始まりました。
「これから解析に取り組む」という方についても、“実際に解析を進めたい”具体的な案件もあります。「具体的な問題の投げかけに対し、それを掘り下げていく」、あるいは「いろいろな視点から、質問が投げかけられる」という風な、よい議論の進め方になっていたと思います。
初めに、司会のソリッドワークス・ジャパン 大澤美保氏から、ワタクシにいきなりこんな“ムチャ振り”が飛んできました(笑)。
「『2次元から3次元』とか『解析』とか、新しいモノを使ってくれない人たちに、どうやって使ってもらったらよいでしょうか。ご意見はありますか?」
これは先ほどの「“古い設計者”に、どうやってCAEを使ってもらえばよいか」ということにつながります。
これについては、私も過去にベンダーの立場からいろいろなケースを拝見してきたのですが……。
例えば、「年配のキーマンを作る」といったことを私が持ち出してみると、それに対してまた別の視点で、高橋先生や岡田氏、さらに別の参加者が意見を述べるといった感じで議論は進行していきました。どの参加者も“一面的でない”ものの見方ができたのではないでしょうか。
もちろん、お題はこれだけではありません。
測定についての話題もありました。例えば、「高速度カメラを活用するメリット」「毎秒1200枚撮れるくらいのカメラなら、最近は価格10万円くらいで手に入るのでは?」などという解析とは切り離せない「測定の視点」もしっかりと語ることができたのも、現場の方たちが主役となってディスカッションが進んでいたからでしょう。
もちろん、解析そのもののお話もありました。
「解析の絶対値にどうしても目が行ってしまう」ことが珍しくありません。やはりそれに対してむしろ「傾向が正しいのか」ということを考えることの重要性についての話も出ました。先ほどの「実験値と合わせる」という話にもつながる話題ですね。
これは、私の著書でもそういう考え方を大事にしてきましたし、この議論の最中も、私自身の意見として「インプットとして不明確なものや未知のものが多い場合には絶対値を追うよりも、『ここを変えたら、結果はこう変わる』ということを知ることが大事なのでは」ということを述べさせていただきました。
それから ある出席者の方から、「大型船のマストの共振を回避するのに苦労する」とのお話がありました。既にSolidWorks Simulationで解析をされているようでしたが、実物と解析が違っているとのことでした。それもかなり大きく。ということで議論は以下のようにホットになっていきました。
実際の状況をお聞きすると、共振の問題となる周波数の発信源については、主要なもの(エンジンなど)は特定されているため、現状は現場合わせでいろいろな工夫をしているそうです。これがちゃんと解決できないと、船に装備されているレーダーなど高価な機械が壊れてしまいます……。
そして今後は、現場合わせではなく、あらかじめ応答解析をしたいということでした。ほんの短い時間でのお話でしたので、現象や現在の対応をお聞きしながら、あっという間に時間が過ぎ去ってしまい、解析そのものについての突っ込んだ話までは進行しませんでした。が、とにかく肝心なのは、多様なバックグラウンドの人たちがとにかく意見交換をしたというところではないでしょうか。
森藤氏からは、解析で“やってはいけないこと”の紹介もありました。過去に同氏が見た解析の一例です。とある台の上に水平に振動する機械があって、その振動を最小限に抑えるような設計がしたいという話がありました。他の人がしていたその解析を見たところ……、そうですね……平たくいうと、「その挙動を再現できるようなモデリングになっていなかった」ということでした。
もっと極端に言うと、全く意図違いの解析をやっているのに、「解析結果、出ました!」という状態だったそう。
つまり、いくら解析をやっていても、その解析モデルが現実のものとかけはなれていては、意味がない……という話です。当たり前ですが、設計現場からの事例だったので、非常に分かりやすい話でした。続いて、「では、どういうモデリングがよいのか」と、議論は続きました。
難しい現象は、解析のエキスパートにとってもチャレンジングです。“CAEについては”初心者という方も、“技術者としては”エキスパートならば、そこで議論を深めていくことで、実際の現象と解析の関係を学んでいくことができます。
そういった意味でも、あらゆるレベルのCAE経験にとって意味があるディスカッションになったと感じました。
実は今回、警察の科学捜査関係の方もいらしていました。例えば事故で「構造物が倒れて人が死亡した」ときの検証などに、3次元CADとCAEを活用して検討するとともに、説明資料などにも3次元データを使いたいとのことでした。いつの間にか、時代なのですね。
破壊の具体的な原因(事故の原因)は固定していたボルトにあったようです。で、その破壊の検証は、どういう解析モデルを作ればいいのか、ということが知りたいとのことでした。これまた解析のモデリングから、ボルトの破壊にフォーカスにした話まで、さまざまな意見が飛び交っていました。
何でもかんでも解析せずに、場合によっては便覧を見た方が早いこともあります。まず「自分が何を求めているのかをよく考えてから作業を進めましょう」という話もここで出ましたね。
このパネルディスカッションは、90分続いたのですが、話が全く途絶える様子はなく、しかも話題は今回示したもの以外にもさまざまなものがありました。はっと気がついたら、終了時間の17時ちょうど。ソリッドワークス・ジャパンが取っていたアンケートには「時間が短過ぎる」とクレーム(笑)を書かせていただきました。
今回のような解析のフォーラムはソリッドワークス・ジャパンも初めてだったということで、恐らく手探りの部分はあったと思います。でも、まさに立場を超えたCAE関係者が生身で参加するコミュニティーのポテンシャルを感じたイベントでした。
「このようなイベントが、全国のあちらこちらで催されるといいな」と感じた1日でございました。
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