日本マイクロソフトは、小売業にフォーカスした「Windows Embedded インテリジェントシステムズ」に関する記者説明会を開催。SUR40 for Microsoft SurfaceやKinect for Windows センサーを用いた次世代の衣料品店をイメージしたコンセプトデモを披露した。
日本マイクロソフトは2012年3月5日、東京ビッグサイトで開催される「リテールテックJAPAN 2012」(会期:2012年3月6〜9日)の開幕を前に、小売業にフォーカスした「Windows Embedded インテリジェントシステムズ」に関する記者説明会を開催した。
同社は小売業向けに、ハンディターミナルやPOS端末などといった店舗側のシステム、そしてバックエンド側のエンタープライズシステムやクラウドサービスなどといった包括的な技術・ソリューションを提供している。これらがシームレスに接続され、店舗側から吸い上げられる膨大なデータをバックエンド側で分析、加工、活用することで、ビジネスにおける意思決定や新商品の企画・開発などに役立てることができる。これは、同社が2011年11月に打ち出した“インテリジェントシステムズ”に基づくビジョンそのものである。
説明会では、米マイクロソフト Windows Embedded担当 APACディレクターであるジョン・ボラディアン氏が、小売業におけるインテリジェントシステムズの展開およびパートナーとの連携についての説明、さらに最新のデモンストレーションなどを披露した。本稿では説明会と個別取材の内容を基に、同社が示す、小売業におけるインテリジェントシステムズの最新動向をお伝えする。
これまでの組み込み機器というのは、限られたリソース内で、独自機能を実現するために作り込まれたシステムであり、ある特定用途の閉ざされた空間での利用が当たり前であった。しかし、近年では、ハードウェアの性能が向上し、ネットワーク接続機能を当たり前のように搭載した機器が増えている。これにより、機器同士、あるいは機器とエンタープライズシステムとの接続性が急速に向上してきている。「こうした進化により、データを集め、保管し、分析・加工して、ビジネスにおける意思決定の材料として活用するという一連の流れ、つまり、インテリジェントシステムズの展開が可能となった」(同氏)という。
インテリジェントシステムズとは、ビジネスにおける「データ活用である」と言える。これまでもビジネスの現場において、データ活用の重要性は叫ばれ続けているのに、なぜ同社はインテリジェントシステムズというビジョンを2011年11月から打ち出し始めたのか。この問に対し、同氏は「昨年(2011年)、当社とインテル、IDCでこれからのテクノロジーおよびビジネスのトレンドについて話し合う機会があった。そこで、テクノロジーの進化に伴い、これまで以上にデータ収集・活用が加速していき、その流れはしばらくの間続くであろうという結論に至った。当社としてその流れを確実に捉える必要がある」と説明した。
現在、インテリジェントシステムズを構成する組み込み機器の数は世界で8億台といわれ、それが今後、2〜3年のうちに2倍以上に増加し、2015年にはそのビジネス規模が52億米ドルにも及ぶという。
インテリジェントシステムズは、何も企業や経営者のためだけの概念ではない。例えば、小売業であれば店舗を訪れる顧客にも新しいユーザー体験をもたらす効果が期待できる。
現状に目を向けてみると、小売業におけるシステム化が比較的進んでいる日本でもインテリジェントシステムズと呼べるほどのデータ活用には至っていないという。同氏は「データを活用したエンドツーエンドのビジネスを行っている企業は少ない。また、店舗の機器の管理や保守、教育といった面でも課題がある。十分な効率化や収益性が得られていないところが見受けられる」と小売業における課題を指摘する。
同社が定義するインテリジェントシステムズの実現において、最も重要なものは「シームレスな接続性」だ。それを実現する強みを同社は持っているという。POS端末向けの専用OS「Windows Embedded POSReady」やハンディターミナルなどで採用されている組み込みOS「Windows Embedded Compact」の他、バックエンドのサーバ、データベース、クラウド関連の技術・ソリューションなども有する。「当社のソリューションであれば、店舗側の機器からバックエンドのシステムまでシームレスに接続できる。そして、それらを活用するためのさまざまな仕組みが備わっている。小売業において、シームレスなプラットフォームソリューションを提供できるのは当社の強みである」(同氏)。
もう1つ、小売業において頭の痛い問題がある。今やショッピングのシーンでは実店舗だけでなく、ネットショップも選択の1つになっている。顧客は実際の店舗で商品の品質やその値段を確認し、インターネットで最も安く手に入る店を探して購入するようになってきている。何もしないと顧客は価格の安いところを求めて流れていってしまうわけだ。「そのため、顧客をどうやって店舗にとどまらせるか、どんな顧客体験であればその店で商品を購入するのかを考え、それを実現する必要がある」(同氏)と指摘する。
では同社のソリューションでどんな新しいユーザー体験を提供できるのか、以降で紹介したい。
今回の説明会では、衣料品店での利用を想定した小売業向けインテリジェントシステムズのデモンストレーションを披露した。なお、デモシステムを開発したのはRazorfishである。
店舗側の機器構成としては、「Kinect for Windows センサー」およびカメラを搭載した大型のデジタルサイネージ(NEC製の4面マルチスクリーン対応ディスプレイ「LCD-X462UN」)と、先日発表されたばかりのSamsung Electronicsの「SUR40 for Microsoft Surface(以下、Surface)」、そして店員が持つWindows搭載スレート端末である。これらの機器に表示されるコンテンツや情報は全てバックエンドのクラウドサーバ上で管理されている。
顧客は、デジタルサイネージに表示されたコンテンツをジャスチャーで操作し、好きな商品の情報を閲覧。また、その情報をSurfaceで確認したり、指によるドラッグ操作で顧客が所有する「Windows Phone」端末にデータを転送したりすることができる。店員は顧客が取得した情報などを手元のスレート端末で確認。他のオススメ商品の情報などをフリック操作で弾くことでSurfaceに送り、顧客にコーディネートを提案したりすることも可能だ。さらに、Kinectセンサーによる「仮想試着」を実現しており、デジタルサイネージの前に立つだけでほしいものリストに入れた商品を仮想的に試着することができる。デモではネクタイの試着を実演してみせた。
こうしたデモンストレーションや小売業向けのソリューションなどをリテールテックJAPAN 2012のマイクロソフト・ブースで見ることができるという。
小売業において、システム化が進んでいるとされる日本では、その規模は別としてもデータ活用に関する何らかの仕組みを保持・運用していると考えてよいだろう。こうした既存システムが動く中で、インテリジェントシステムズを実現するためのソリューションを新たに導入・移行するには高いハードルがあるのではないか。
これに対し、同氏は「何の対処もなしに導入するのは確かに困難である。導入や移行については小売・流通分野に強みを持つパートナー企業と組んで対応している。顧客ニーズのヒアリングとマッピング、そしてコンサルティングをしっかりと行った上で、導入・移行を進めていく必要がある」という。
説明会には、日本のパートナー企業であるNEC、東芝テック、富士通フロンテックの3社も参加し、各社が展開する小売業向けソリューションの紹介などを行った。
マイクロソフトの技術・ソリューションを活用した製品/サービスを展開する他、独自技術を活用したソリューションなども手掛けている各社。今回、マイクロソフトが掲げるインテリジェントシステムズのビジョンに対しては、何か新しい概念や仕組みということではなく、「ビッグデータ」に代表されるような“トレンドの1つ”として捉え、かつ各社がこれまで取り組んできたソリューション展開の“延長線上にある考え方”であるという共通認識を持っているようだ。
繰り返しになるが日本の小売業におけるシステム化は、諸外国と比較しても進んでいる。今回披露されたコンセプトデモのような新たな小売店舗の在り方が日本から世界に発信される日を期待したい。
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