米Microsoftは、組み込み機器向けOS製品群「Windows Embedded」の次世代バージョンに向けたロードマップを公表した。Windows 8ベースで、タッチ、ジェスチャ、スピーチといったNUI(Natural User Interface)テクノロジーも組み込まれるそうだ。
米Microsoftは2011年11月11日、同社の組み込み機器向けOS製品群「Windows Embedded」の最新ロードマップに関する記者説明会を台湾・台北で開催した。
同説明会では、同社 Windows Embedded部門のDirector of Program Managementを務めるBen Smith氏が登壇し、「インテリジェントシステム」の実現に向けた同社のビジョンと、Windows 8をベースとする次世代Windows Embedded製品群の概要説明がなされた。
そもそも同社が掲げるインテリジェントシステムとは何か? 従来の組み込み機器は基本的に“それ単体”で機能するもの(それがある意味当たり前)であったが、近年、組み込み機器のネットワーク対応が急速に進み、機器同士の接続、もしくは組み込み機器がクラウドのようなネットワーク上のサービスに接続することが可能となった。これにより、例えば組み込み機器に搭載されているセンサーからの情報を、その機器上で活用するだけではなく、ネットワーク経由で他の機器やネットワーク上のサービスに情報を受け渡すなど、これまでの枠組みを超えて、センサー情報を広く活用することができるようになる。
しかも、組み込み機器が収集したセンサー情報を単にそのままの状態で展開するのではなく、それら情報をエンタープライズシステムといったバックエンド基盤側で、リアルタイムに分析・解析したり、他の情報と統合したりすることで新たな“価値のあるデータ”を作り出すことが可能となる。これを同社はインテリジェントシステムとして定義し(プレスリリース参照)、現在、実現に向けた取り組みを進めている。Ben氏は「インテリジェントシステムにより、データそのものが“通貨”と同じくらいの価値を持つようになるでしょう」と、インテリジェントシステムにおけるデータの重要性をそのように表現する。
機器と機器(モノとモノ)がネットワークで有機的につながっていくことを「Internet of Things」と呼ぶが、近年の組み込み機器のハードウェア性能の向上や低価格化、ネットワーク対応、リッチなユーザーインタフェース(以下、UI)の登場、そして、クラウドコンピューティングの普及などが、その実現を急速に後押ししているという。「皆さんがよく知っているATMやPOS端末、そして、センサーを搭載した小さな機器に至るまで、さまざまな機器がネットワークにつながるようになってきている。それらがネットワークを介して相互につながり、バックエンド基盤と連動し、システムとして統合されることで、個々のデバイスでは実現できなかった高度でスマートな機能、インテリジェントな機能をもたらすようになる」(Ben氏)。
同社によると、インテリジェントシステムを実現するには、それを構成するための6つの要素が必要だという。
まず基盤となるのが「Identity」と「Security」である。ネットワークにつながるということは、そもそも、その機器が何者であるかを識別できている必要があり、それにより、その機器からのデータをサービス側で受け取ることが可能になる。その際、接続時のセキュリティやデータ自体のセキュリティを当然確保する必要がある。次に求められるのが、機器単体でWi-Fiや携帯電話通信網といった各種ネットワークへの通信を確立できる「Connectivity」、さらにこうした無数の機器をPCやサーバと同じように管理できる仕組み「Manageability」だ。そして、最後に「従来の組み込みシステムの枠組みを超え、インテリジェントシステムへと昇華させるための最も重要な要素」(Ben氏)である「User experience(以下、UX)」と「Analytics」が挙げられる。キーボードやマウスだけでなく、ジェスチャやタッチ、スピーチのような新たな入力手段により、例えば、ユーザーやタスクに応じてUIを変化させるといったUXによる差別化。そして、デバイスから収集したデータを分析する仕組みが重要となる。
ここまでの内容で何度も触れているように、インテリジェントシステムにおいて一番の肝は“データ”だ。前述の通り、Ben氏は「インテリジェントシステムにより、データが通貨のような意味合いを持つようになる」と表現したが、具体的に組み込み機器から取得したデータがどのようにして、そのような価値を生み出すのか。Ben氏は以下のスライドを基に、次のように説明する。
まず、(1)組み込み機器に搭載されているセンサーなどからの情報や機器自体が持つシステム情報を収集・蓄積し、それを何らかのデータに変換し、再度組み込み機器でそのデータを活用する。さらに(2)ネットワークを介して企業バックエンドのエンタープライズシステムと接続し、(3)組み込み機器からのデータを企業情報の1つとして、BI(Business Intelligence)ツールなどで分析・加工し、次の企業活動に生かす。こうすることで、(4)ビジネスの意思決定や新たな製品・価値の創造、さらには(5)組み込み機器の管理や機器のアップデートなどにも役立てることができる。「つまり、データ自体がインテリジェントシステムをより強固なものにしていく。市場や経済を牽引(けんいん)する通貨のように、データがシステム全体を牽引していくようになる」(Ben氏)。
同社は、こうしたインテリジェントシステムを実現するための各種プラットフォームやサービス、ツール、そしてKinectで培ったNUI(Natural User Interface)による新たなUXなどを包括的に提供していくビジョンを打ち出している。その1つが、以降で紹介するWindows 8ベースの次世代Windows Embedded製品群だ。
Ben氏は「Windows 8の存在は、PCやサーバ製品だけでなく、次世代のWindows Embedded製品群にも大きな影響をもたらす」と説明する。
同説明会ではWindows 8の詳細に触れることはなかったが、Windows 8ベースのWindows Embedded製品「Windows Embedded v.Next」に関するロードマップが示された。
2012年の第1四半期には、Windows Embedded Standard 7 の後継に当たる「Windows Embedded Standard v.Next」のCTP(Community Technology Preview)版が公開される予定で、一般利用開始時期はWindows 8がPC向けに提供されてから9カ月後になるそうだ。
また、先日アップデートされたWindows Embedded Compact 7 の後継「Windows Embedded Compact v.Next」が2012年の後半に登場する予定。同説明会では、開発環境としてVisual Studio 2010に対応することが明かされている(Compact 7の開発環境はVisual Studio 2008である)。
なお、デスクトップPC向けのWindowsと同じバイナリを使用できるが、デスクトップ画面の非表示での利用や、組み込みシステム向けの単一用途での利用といった制限が設けられているWindows Embedded Enterpriseの最新版「Windows Embedded Enterprise v.Next」については、Windows 8がPC向けに利用可能になってから3カ月後に登場する予定だという。
また、タッチ、ジェスチャ、スピーチといったNUIテクノロジーを組み込み機器向けに展開することも決定しているそうだ。
残念ながら今回の説明会ではWindows 8に関する詳細や、それをベースとするWindows Embedded v.Next製品群の細かな機能説明には触れられなかった。Windows 8自体の情報ももちろんだが、今後の同社のインテリジェントシステムに関する取り組みの中で、Windows Embedded v.Next製品群の最新機能やその実力が徐々に明らかになっていくのではないだろうか。引き続きその動向に注目していきたい。
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