Windows Embedded CEの後継に当たる「Windows Embedded Compact 7」。本特集ではCTP版を基に、新機能・開発環境などについて紹介する
Windows Embedded CE 6.0 R3の後継に当たる組み込みOS「Windows Embedded Compact 7」。ほかのWindows Embedded製品と同様に名称が変更され、今回、より慣れ親しんだ“CE”の名前から“Compact”へと生まれ変わりました。
今回は、2010年6月に公開が開始された「Windows Embedded Compact 7 CTP(Community Technology Preview)版」を基に、Windows Embedded Compact 7の概要を解説していきます。
CTP版は、マイクロソフトのWebサイトからダウンロードできます。
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なお、本稿執筆時点の最新ビルドは、「Windows Embedded Compact 7 Global Community Technology Preview」でした。
Windows Embedded Compact 7の開発環境は、Windows Embedded CE 6.0 R3で利用されていたVisual Studio 2005ではなく、「Visual Studio 2008」となります。
以下、表1に開発環境のシステム要件を示します。
ハードウェア要件 | 約55Gbytesのディスク空き容量 最低:1.6GHz CPU、384Mbytes RAM、1024×768ディスプレイ 推奨:2.2GHz以上のCPU、1024Mbytes以上のRAM、1280×1024ディスプレイ ※上記以外に高速なHDDを推奨 |
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オペレーティングシステム | Windows XP Service Pack 2 Windows Vista Service Pack 2 Windows 7 |
ソフトウェア要件 | Visual Studio 2008 SP1(全コンポーネント) Expression Blend 3(for Windows Embedded Silverlight Tools) .NET Framework 3.5 |
表1 開発環境システム要件 |
Windows Embedded Compact 7では、さまざまな機能が更新されています。
まず、Windows Embedded CE 6.0 R3から提供された「Silverlight for Windows Embedded」が強化されました。また、タッチ・ジェスチャの機能についても、Windows Embedded CE 6.0 R3ではシングルタッチだったものが、Windows Embedded Compact 7では「マルチタッチ」がサポートされました。
Silverlight for Windows Embeddedとタッチ・ジェスチャによって、最近のコンシューマ機器やスマートフォンで見られる優れたユーザーインターフェイス(以下、UI)を容易に開発することが可能となります。
Windows Embedded Compact 7の最重要な変更点として、「コンパイラの変更」が挙げられます。
Windows Embedded CE 6.0 R3まではARMv4コア向けのバイナリを作成していましたが、Windows Embedded Compact 7からは「ARMv7コア」向けのバイナリを作成できます。これによって、最新のARM命令セットが利用でき、これまでCPUのクロックに頼っていた処理を最適な命令で実行することが可能となります。
また、同時に「Vector Floating Point(VFP)」と「Symmetric Multiprocessing(SMP)」への対応が行われています。SMP関連については、専用のAPIが追加され、タイマー、スレッド、CPUなど、マルチプロセッサ環境下で必要となるファンクションが提供されています。一方、VFPについては、これまでARM社より入手していたVFPライブラリがOS標準として提供されています。これによって、Windows Embedded CE時代から課題となっていた“浮動小数点演算”に、ハードウェアの補助を受けることが可能となります。
従来のWindows Embedded CE上で、浮動小数点演算を行うような処理をプログラミングすると、多くの時間をこの浮動小数点の演算に費やさなければなりませんでした。今回のVFPのサポートで、標準機能としてハードウェアの補助を受けられるようになるため、多くのアプリケーション開発エンジニアの助けになることでしょう。
ただし、ARM9ではこのVFPライブラリを利用できません。Windows Embedded Compact 7の最大パフォーマンスを得るためには、ARM11以降のCPUが必要となります。さらに、先ほど紹介したタッチ・ジェスチャ操作時に表示されるアニメーション効果についても浮動小数点を利用した物理演算が行われます。こうしたWindows Embedded Compact 7の最新のユーザービリティを得るためには、最新ARMアーキテクチャへの対応は必然であり、また大きな飛躍といえるのではないでしょうか。
Silverlight for Windows Embeddedを利用し、優れたUIを実装できる実例として、Windows Embedded Compactでは「Sample Home Screen」が提供されています。
昨今のコンシューマ機器やスマートフォンで利用されているような、アニメーションを活用したホームスクリーンのサンプルとして参照できます。
Remote Desktop Protocol(RDP)の機能拡張として、「Dynamic Virtual Channel(DVC)」のサポートがあります。
DVCは、ネットワーク上のVirtual Channel上にさまざまなデータを載せて、サーバ/クライアント間で通信できます。これによって、これまでサポートされてこなかったサーバ上のハードウェアをクライアントで利用したり、クライアント側のハードウェアから入力されたデータをサーバ側で認証したりと、RDPの機能を拡張できます。
Windows Embedded Compact 7では、このDVCを利用してクリップボード連携、ファイルシステムリダイレクト、シリアルやプリンタドライバをサーバ側にリダイレクトすることが可能となっています。また、RDP単体として、オーディオ機能のリダイレクトも追加されました。
ネットワーク関連としては、ネットワークドライバのNDISバージョンが更新されました。これまでのNDIS5.1に加え、Windows Embedded Compact 7では新たに「NDIS6.0」がサポートされました。
Windows Embedded Compact 7では、「Loader Verifier Module(LVMOD)」によって、アプリケーション起動時の安全性が確保されます。不明なアプリケーションの起動を抑止し、組み込みデバイスの安全性を確保することが可能となります。
「Internet Explorer 7.0 for Windows Embedded Compact」では、パンとズームのサポートが行われ、Flash 10.1によるFlashコンテンツの再生も可能となっています。
これ以外にも、DLNA1.5によるメディアの共有・管理が可能となり、コンシューマ機器の開発をより速く行うことが可能です。また「Windows Device Stage」によって、Windows 7搭載のPCとシームレスに接続・連携が可能となります。
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