学生向け組み込みアプリケーション開発コンテスト「Device2Cloud コンテスト 2012」のチャンピオンに輝いたのは、神奈川工科大学の「Team Tanaka labo」だ。彼らは、教育現場におけるより良い授業の提供と、学生の授業に対する理解度の把握を可能にする「リアルタイム授業支援システム」を考案した。
2012年3月4日、東京エレクトロン デバイス(以下、TED)が主催する学生向け組み込みアプリケーション開発コンテスト「Device2Cloud コンテスト 2012」の決勝大会が行われた(会場:日本マイクロソフト)。今年で2回目の開催となる。
高校生以上の学生(高校、専門学校、高専、大学、大学院、職業訓練校などの学生)が2〜3人でチームを構成し、組み込みアプリケーションの企画力・開発力を競うコンテストである。主催企業であるTEDの他に、日本マイクロソフト、フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン、サムシングプレシャス、アットマークテクノ、アフレルの5社が協賛企業として名を連ねる(関連記事)。
同コンテスト開催の目的は、グローバルの視点で自ら製品を企画し、開発できるクラウド時代の組み込みアプリケーションエンジニアの育成にある。コンテストの名称からも連想できるように、ネットワーク機能を搭載した組み込み機器とクラウドサービス(Webサービス)との融合による新たなサービスの創造・実現を目指すものである。
そのため、コンテスト参加者らは、大会規定のハードウェアとソフトウェア(表1)を用いて、何らかのWebサービス(自作・既存問わず)と連携する組み込みアプリケーションを開発しなければならない。なお、大会規定のハードウェアとソフトウェアを用いさえすれば、改造したり、別のハードウェアを追加したりすることが認められている。つまり、組み込み開発初心者向けのコンテストで知られる「ETソフトウェアデザインロボットコンテスト(通称:ETロボコン)」のようにハードウェアの改造が許されない(つまり、ソフトウェア性能での競技)大会よりも自由度の高いコンテストといえる。いうなれば、学生らしい自由な発想・アイデアを具現化できるような柔軟性を持たせているわけだ。ちなみに、2011年に行われた第1回大会では、センサー内蔵の枕で取得した睡眠状態をネットワーク対応の目覚まし時計からTwitterに投稿する「ねいったー」が優勝している(関連記事)。
区分 | 製品名 | メーカー名 |
---|---|---|
CPUボード | Armadillo-440 | アットマークテクノ |
センサーボード | JM Badge BoardもしくはTWR-SENSOR | フリースケール・セミコンダクタ |
OS | Windows Embedded Compact 7(評価版) | マイクロソフト |
BSP | Lilas(特別版) | サムシングプレシャス |
表1 ハードウェア/ソフトウェア要件 |
今大会へは全16チームがエントリーしたという。そして、今回、企画内容、技術力、ビジネスの実現性などが問われる厳しい予選審査を勝ち抜いた強豪5チームが決勝大会に出場(表2)し、ファイナルステージ上で自らのソリューションのプレゼンテーションとデモンストレーションを行った。
発表順 | チーム名 | 学校名 | ソリューション名 |
---|---|---|---|
1 | チーム Gee | 九州職業能力開発大学校 | 継続支援システム歩数計 |
2 | チームT | 東海大学 | ぶたツイ ファミリ |
3 | AUK | 九州職業能力開発大学校 | マップナビゲーター |
4 | Team Tanaka labo | 神奈川工科大学 | リアルタイム授業支援システム |
5 | さくらじまどん | 九州職業能力開発大学校 | 盛り写メアップローダー |
表2 決勝大会出場チーム(発表順) |
以降で、結果および優勝したチームのソリューションを中心に、決勝大会の模様をダイジェストでお届けする。
見事、チャンピオンの栄冠を手にしたのは神奈川工科大学のチーム、「Team Tanaka labo」の考案した「リアルタイム授業支援システム」である。
同システムは教育現場におけるより良い授業の提供と、学生の授業に対する理解度の把握を可能にするものである。学生がきちんと授業の内容を理解しているかどうかを教員が授業中にリアルタイムに把握し、学生の理解度に合ったスピードで授業を行うことで満足度を高めようというものだ。「これまで授業の理解度の把握には挙手・口頭での確認、ペーパーテストなどが行われてきた。しかし、これらの手段では大まかな把握しかできない上、ペーパーテストの実施となると時間も労力必要となる」(Team Tanaka labo)。同システムではこうした欠点を補うため、「電子投票システム」の導入を採用。これにより短時間で設問に対する回答・集計が可能となり、その結果をすぐにフィードバックすることもできるという。
Armadillo-440をベースに電子投票システムの投票端末側を開発。設問に対する回答方式をタッチパネル上での自由記述ではなく、タッチパネルとの親和性から選択式とした。また、同大学の学生証(FeliCa内蔵)を用いた電子キーを実現し、これをシステムのログインに使用する他、座席に組み込んだセンサーボード(TWR-SENSORの3軸加速度センサー)により座席に座っているかどうかまで判定する。「FeliCa認証による電子キーと、座席のセンサーでしばしば問題になる代返などの防止も図れる」(Team Tanaka labo)という。
同システムでは、「Q-Voteサーバ」と呼ばれる設問管理や回答管理などを行うサーバを用いる。教員は授業の開始前にQ-Voteサーバにアクセスし、設問(小テストの問題など)を設定、授業中に教員のPCからQ-Voteサーバへアクセスし、Webブラウザ上で作成した設問を表示(それをプロジェクタなどで映して回答を指示)する。そして、回答を指示された学生は座席に設置されたArmadillo-440のタッチパネルで回答を選択する。それが瞬時にQ-Voteサーバにアップロードされ、集計結果を容易に教員のPCに表示することができる。なお、Q-Voteサーバには、教員が設定した設問、学生の回答内容、学生のユーザー情報など全てのデータが格納される。
ビジネス構想としては「投票端末としてArmadillo-440+センサー類を統合し、パッケージ形式で提供・販売することを想定。Webサーバ側の投票システムについては、年間ライセンス制による有償版と機能制限を設けた無償版での展開が可能ではないかと考える」(Team Tanaka labo)。
優勝の理由について、同コンテストの審査委員長を務めた広島工業大学 長坂康史氏は次のように語る。「技術力とプレゼン力の2点に優れたチームを選定。コンテスト本番環境であってもきちんとシステムが動作し、他のチームよりも完成度が高く、モノとして“できている”なという印象を持った」。
続く第2位に輝いたのは、募金・貯金をテーマにお金の流れや目的の見える化を目指し、「ぶたツイ ファミリ」を考案した東海大学の「チームT」。投入された金額などをTwitterに投稿したり、グラフや木を模したグラフィックスで貯金状況を可視化するなど面白い工夫が随所に見られた。また、第3位の九州職業能力開発大学校の男女混成チーム「さくらじまどん」は、女性視点の“盛れる”写メをテーマにした「盛り写メアップローダー」を考案。服のコーディネートや食べ物、メイク(顔のアップ)などの写真を最適な照度で撮影し、それを簡単にブログにアップロードできるというものだ。
最後に、長坂氏は「昨年よりもレベルが上がっているが、Webサービス側の作り込みや、ビジネスとしての実現可能性に関する詰めはどのチームもまだ不足気味。ただ、入賞したチームもそうでないチームも今回のチャレンジは決して無駄にはならないし、この決勝の舞台に残れたことに自信を持ってほしい」と激励、総評した。
結果 | チーム名 | 学校名 | ソリューション名 |
---|---|---|---|
優勝 | Team Tanaka labo | 神奈川工科大学 | リアルタイム授業支援システム |
第2位 | チームT | 東海大学 | ぶたツイ ファミリ |
第3位 | さくらじまどん | 九州職業能力開発大学校 | 盛り写メアップローダー |
表3 入賞チーム |
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