「モノはできたけど……」の後につまずきがちなもう1点が、PRや営業だ。ここでは、IT企業ならではの強みや、ITやWebのリテラシーの高さが存分に生かされた部分だ。
基本的な活用法は同社のWebページを確認してもらうようにして、Su-Penの在庫情報や活用法などは7knowledge(メタモジの販売子会社)の公式Twitterアカウント(製品のサポート専用)から発信している。Su-Penの在庫リリース情報も、Twitterに流れる。もちろんこのアカウント宛てへのつぶやきも、小まめにチェックし、リプライしている。
メタモジの公式Twitterでは、同社製品全般の情報、USTREAM配信情報と併せ、社内のおやつ情報もたまにつぶやいてみるなど、親しみやすいSNSの活用も手慣れたもの。同社のUSTREAM番組では、オフレコ情報も流している(放送時のみ:オフレコだけに、録画はされない)。
同社のように、Webのコミュニティーをうまく活用し、そこに“自然に溶け込む”ことも、製品のPRや営業において大切なテクニックとなってきている。
その道のプロであるタッチペンメーカーにコンセプトの時点で企画を持ち込み、提携ないしは開発を委託することは考えられなかったのか。
いま思えば、その手もなくはなかったそうだが、そもそもSu-Penは、「7notesをもっと気持ちよく使いたい」「自分が欲しい物を作ってみよう」という植松氏の強い思いを発端としたプロジェクト。その企画や構想設計段階から、外部の企業を挟んでいたら、少々じれったい思いをしただろう。「メーカーさんにはメーカーさん自身のビジネスモデルがありますから、できることには限界があったと思います」(植松氏)。
ある程度の規模のメーカーの場合、ひょっとして、こんなに迅速に、かつ細やかな製品は実現できなかったのかもしれない……。
何より、浮川氏や植松氏自身が、タッチペンのヘビーユーザーだったことは強い。同社では、製品開発中に、大々的にマーケティングリサーチをしたわけではない。しかし、やっていたといえば、やっていたともいえるかもしれない。
そもそも、製品開発者の植松氏自身が、狙う顧客そのものの姿だった。まずこの時点で、想定の顧客ニーズがある程度はっきりしていた。さらに、タッチペンユーザー市場の縮図ともいえるメタモジ社内で、ヒアリングしたことで、捉えた顧客ニーズの精度を高めていった。そして、数々のタッチペンを評価してきた倉園氏のお墨付きをもらい、自信を強めた。そうして定めたターゲット目がけて、ぶれることなくモノづくりに取り組んでいった。
そして、その販売には、コストと手間の掛からないWeb通販を利用した。
その結果、市場がまさに欲しているタイミングで製品を素早く市場へ送り出し、まさに“飛ぶように”売れていくことへとつながった。
さて、そんなSu-Penの今後は、一体、どうなっていくか。
万年筆には、「ペン先の固さ」や「ペン軸のデザイン・形」に人の好みがあるが、Su-Penも同様であるはず。同社では、これからはユーザーの好みに合わせて、ペン先のカートリッジやペン軸もいろいろ用意していきたいということだ。実際、先述のように、既にSu-Penはそういう使い方ができるように設計されている。
ペンの型番にある「M」は、鉛筆の芯(しん)の固さを示す「H」や「B」と同じだという。「将来は、さまざまな固さのペン先を作りたい」という植松氏の思いから。
「でも、それはあくまで将来の話。いまはまず、Su-Penの在庫確保をどうにかしなければ……!」(植松氏)。
うれしい悲鳴をあげながら現状の問題を打破した後、Su-Penが一体、製品としてどのような進化を遂げるのだろうか。またそれが、世の中のタッチペンやタブレットデバイスの活用にどのような影響を及ぼしていくのだろうか。
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