リチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)がけん引役となって需要が伸びていく。このとき必要なのが高性能で安価な電池だ。電池の正極や負極の組成や構造が最も重要だが、両極を分離するセパレーターもEV仕様に変更しなければならない。
「リチウムイオン二次電池に用いるセパレーター市場では2010年度から自動車向けの需要が拡大している。当社では2015年度には自動車向けが市場全体の約4割を占めると予測しており、高耐熱セパレーターを低コストで製造する技術を開発した」(三菱樹脂)。
三菱樹脂は、2012年に高耐熱セパレーターを発売、2013年度に量産を開始し、2015年度には7200万m2の販売を目指す。これは同社が予測する2015年度時点のセパレーター市場の10%強のシェアに相当する。
そもそもセパレーターはリチウムイオン二次電池の内部でどのような役目を担っているのだろうか。電池の内部には、電気エネルギーを蓄える正極と負極の他、電解液とセパレーターが組み込まれている(図1)。
図1にあるように正極と負極はシート状であり、セパレーターを間に挟んで紙を重ねたように実装されている。正極と負極が直接接触して短絡(ショート)が起こらないようにしているのがセパレーターだ。
セパレーターは単なる分離膜ではない。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオン(Li+)が正極と負極の間を移動することで機能する。従ってリチウムイオンの自由な移動をセパレーターが妨げないようにしなければならない(図2)。そこで樹脂に微細な穴を加工したフィルムが、セパレーターとして使われている。
セパレーターに求められる機能は他にもある。「シャットダウン機能」だ。電池内部で、正極と負極の間に微細な短絡が生じたとしよう。すると、その部分の温度が上昇し、セパレーターの微細な穴が融解して閉じる。
現在広く使われている3層構造のセパレーターは、ポリエチレンを上下からポリプロピレンで挟み込んだ構造を採る。ポリエチレンは130℃を超えると融点に達する。このため、短絡が起こり、温度が上昇し始めても、130℃に達すると穴がふさがる。リチウムイオンが透過できなくなり、電流が遮断されるからだ。
民生品などに利用するリチウムイオン二次電池ではこのような動作条件でよい。ただし、「電気自動車などに利用するには、200℃以上の高耐熱性が求められる」(同社)。
どうすれば高耐熱性を実現できるのだろうか。2つの手法がある。1つは、融点の高いアラミド繊維の利用だ。もう1つは無機材料を従来のセパレーターの上にコートする手法だ(図3)。「アラミド繊維は材料コストが従来の材料よりもかさむ。当社が開発した高耐熱セパレータは、従来材料を用いているため、アラミド繊維を用いたセパレーターよりも製造コストを4割引き下げられる。従来材料の上に無機材料をコートすることで約220℃まで耐えられるようにした」(同社)。
今回の開発品は、低コスト化と高性能化を両立できたという。
セパレーターの製造技術は乾式と湿式に分かれる。どちらもセパレーターフィルムを延伸してリチウムイオンの通路となる微細な空隙(くうげき)を作ることは同じだ。湿式では可塑剤を加えた後、溶剤を使って延伸する。その後、溶剤成分を揮発させる。一方、乾式では溶剤を使わない。このため、製造に要する時間や材料コストを低減できる。高耐熱セパレーターは乾式を使うことで低コスト化した。
同社によれば、セパレーターの微細構造によって、リチウムイオンの拡散度が変わる。図4にある「直通孔構造」ではリチウムイオンが特定の経路に集中してしまう。一方、「3次元網目構造」を形成できれば、リチウムイオンの経路が分散され、電池の性能が高まる。具体的には3次元網目構造により、低温出力が高まる他、電解液を保持しやすくなるため、サイクル寿命が伸びるという。
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