ET2011レポート、Android編。本稿では、大規模な展示・デモが行われていた一般社団法人「Open Embedded Software Foundation」ブースに注目し、組み込み分野におけるAndroidの最新動向を紹介する。
ここ数年でかなりの伸びを見せているスマートフォンやタブレット端末のOSとして採用されていることもあり、現在「Android」は、組み込み機器分野においても注目を集めている。
これまで高性能な組み込み機器を中心に、主にLinuxが用いられてきたが、ユーザーインタフェース(以下、UI)の開発がより容易なAndroidへと、開発者の関心が移ってきているようだ。
組み込みシステムのプラットフォームとしてAndroid OSの普及に務める一般社団法人「Open Embedded Software Foundation(以下、OESF)」は、2011年11月16〜18日までの3日間、パシフィコ横浜で開催された「組込み総合技術展 Embedded Technology 2011(以下、ET2011)」に出展。「Android Blasts Off!」というテーマの下、大規模な展示とプレゼンテーションを披露した。
OESFのブースでは、11のワーキンググループ(以下、WG)の中から、「スマートハウス」「IPコミュニケーションズ」「セットトップボックス」「テスト&サーティフィケーション」「エデュケーション」の5つのWGが出展し、その成果を展示していた。
また、ブース出展はなかったものの、OESF事務局 エデュケーション ワーキンググループ コーディネーターの満岡秀一氏が大きな成果として強調していたのが「システムコア」WGの取り組みだ。同WGは一般的なスマートフォン/タブレット端末向けのプラットフォームであるAndroidを組み込み機器向けにカスタマイズして最適化するためのコアシステム「Embedded Master」を開発・配布している。最新バージョンはET2011出展直前の2011年11月14日にリリースした“3.2”で、Android 2.2をベースにしている。
「パイオニアが発表したサイクルコンピュータのプロトタイプ版には、このEmbedded Masterが使われており、パイオニアの担当者は絶賛してくれている」と満岡氏は語っていた(関連記事)。
テレビやレコーダー、カーナビや家電製品などには組み込みLinuxが浸透しており、LinuxのウィークポイントであったUIの設計がしやすいことからAndroidへの移行が進んでいる。ただし、「Androidは組み込み機器としてはサイズが大きいため、カスタマイズして軽量化できるEmbedded Masterのニーズがある」と満岡氏(関連記事)。
活動成果を展示するWGの中でも大きな存在感を示していたのがセットトップボックス(STB)WGだ。前回のET2010(関連記事)でもAndroidを搭載したSTBの試作機を展示していたが、今回は表示インタフェースをHTML5対応にし、テレビ画面とともに天気予報やニュースなどのアプリケーションを同時に表示できるというデモンストレーションを披露。今後、その成果をOESFに公開する予定だとしている。アプリケーションは、W3Cのウィジェットなどと互換性が取れるように開発を進めているそうだ。
「タブレット端末に内蔵されている加速度センサーなどを利用し、地震の揺れを感知したら地震速報を表示するアプリケーションを、ウィジェットとして表示するといったことも可能になる」と説明員は話した。
現在はデジタル放送を視聴する仕組みが完成し、HTML5を実装することでウィジェットを導入するめどが立った状況。今後はタブレット端末など、さまざまな機器で動作したり情報を共有できたりする“マルチデバイス化”に向けた開発を進める方針だという。
Embedded Masterをベースに開発された組み込み製品のテスト環境の構築や、その認証に向けた枠組み作りを進めているテスト&サーティフィケーションWGの取り組みにも注目したい。台湾のOESFメンバーが中心になって活動しているWGで、日本では沖縄県や神奈川県横須賀市、藤沢市などとジョイントしてラボを作っている。
藤沢市産業振興財団が、Android製品開発支援に向けて2010年にスタートした「湘南リビングラボ」事業では、ユーザーに製品やサービスを使ってもらい、意見などを聞くユーザーテストの仕組みを提供している。ユーザーエクスペリエンスの手法を基に製品やサービスの開発に生かすというもので、ユーザーの確保からテストの実施、レポーティングまで一貫したノウハウを提供するとのことだ(関連記事)。
沖縄県の展示コーナーでは、企業コールセンターに寄せられた意見や苦情を解析して問題点を抽出し、メーカーにフィードバックする「クレームポートフォリオツール」をデモンストレーションしていた。現状ではクレーム情報からキーワードを抽出して可視化する「クレームクレンジング機能」まで実現しており、今後はグラフ化して、より視覚的にクレーム情報を分析できるようにする方針だという。
OESFのエデュケーションWGは、Androidの技術者を世界中に広めることをミッションとしており、技術トレーニングをオープンソース化して提案、実施している。アプリケーショントレーニングとして「開発入門」「応用開発」「WebAPI開発」の3つ、プラットフォームトレーニングとして「Android組込み開発基礎」「Android開発者のための組込みLinux入門」の2つ、合計5つのコースが用意されている。
また、エンジニアの実力を測るために「Android技術者認定試験」というものを実施していて、「アプリケーション技術者認定試験」の「Basic」をリリースしている(関連記事)。2012年春にはアプリケーション技術者認定試験の「Professional」と、プラットフォーム技術者認定試験をリリースする予定となっている。
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