日産自動車は先進技術説明会を開催し、将来の電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)などに搭載する技術の概要を見せた。今回はFCV用燃料電池スタックの技術開発が大きく進んだ印象だ。非接触充電や住宅への給電(V2H)技術の具体的な姿も明らかになった。
日産自動車は次世代自動車に必要なさまざまな技術開発の成果を「先進技術説明会」(2010年10月5〜18日)で公開した。燃料電池車(FCV)向け新型燃料電池スタックや非接触充電システム、EV「リーフ」から住宅への給電(V2H)技術などについて、最新の成果を見せた。
日産自動車はEVだけでなく、FCVにも積極的に取り組んでいる。日本国内ではFCV「X-TRAIL FCV」の公道走行試験を2002年から開始。2003年モデルのX-TRAIL FCVを使った限定リース販売を2003年に開始、2005年には性能を向上した同2005年モデルの限定リース販売を始めている*1)。2011年4月には羽田空港で「第三者フリート走行実証」を開始、全日本空輸(ANA)とイースタンエアポートモーターズの協力を得て、空港利用者の送迎用ハイヤーとして2005年モデルを提供した。
*1)2005年モデルのサービスは継続しているが、新規の受け付けはしていない。
いつごろまでにFCVの量産を開始するのか、めども明らかにしている。
同社はトヨタ自動車やホンダなど他の12社と共同で「燃料電池自動車の国内市場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明」を2011年1月に発表した。そこでは、「自動車メーカーは(中略)FCV量産車を2015年に4大都市圏を中心とした国内市場への導入と一般ユーザーへの販売開始を目指し、開発を進めている」と今後の方針を示した。
日産自動車はリーフを量産している。EVもFCVも電力とモーターを使って走行することは同じだ。リーフの技術に何を加えれば、FCVを実用化できるのだろうか。
高圧水素容器と、燃料電池だ(図1)。課題は燃料電池にある。FCVを量産するには燃料電池の小型化とコスト低減が必要不可欠であり、今回の発表でも、この2点を改善した。
公開したFCV向けの新型燃料電池スタック(2011年モデル、図2)は水素を燃料とする固体高分子形燃料電池(PEFC)で、特長は3点ある。
2005年モデルと比較して体積当たりの出力(体積出力密度)を高め*2)、小型化を進め、材料コストを大幅に引き下げた。
*2)2005年モデルの体積と出力はそれぞれ90L、90kW。2008年モデルは、同68L、130kWだった。「燃料電池車の種類によって必要な出力が異なるため、2011年モデルの燃料電池スタックの出力を今後どの程度に設定するかは、検討課題である」(日産自動車)。
体積出力密度は2005年型モデル比で、2.5倍に向上*3)。体積1L当たり2.5kWに達した。これは世界トップレベルの数値だという。燃料電池セルを構成する膜電極複合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)とセパレータ流路を改良したことで実現した(図3)。
*3)重量出力密度は2.6倍に向上している。
小型化の成果は、体積を2分の1以下に縮小できたことだ。MEAを支持する多層フレームをMEAと一体成形したことで、燃料電池セルを安定的に1列積層できるようになったことが小型化を実現できた要因だという(図4)。
コストは6分の1に低減した。燃料電池の触媒として不可欠なPt(白金)の使用量を4分の1に抑え、部品の種類を4分の1に削減したことでコスト低減を達成した。
先進技術説明会では、燃料電池と同時に非接触充電システムと、EVから住宅への給電技術も公開した。
それでは、この2つの技術はどのようなものなのだろうか。
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