前回は、ソフトコアプロセッサをFPGAに内蔵する方法とその活用について紹介しました。今回もプロセッサとFPGAの関係性に注目した話題を取り上げていきます。
プロセッサチップの最大手ベンダーであるインテル社は、2010年9月に開催された「Intel Developer Forum 2010(IDF 2010)」で、組み込み機器をターゲットに据えたSoCタイプのAtomプロセッサ「Atom E6xx」シリーズについて言及しました。Intel Atomは、一般的にはネットブックやUMPC(Ultra Mobile PC)と呼ばれるPC系に向けたプロセッサとしても知られていますが、実はさまざまなアプリケーション向けのシリーズ展開が行われています。そのうち“Eシリーズ”は、主に産業機器、組み込み機器市場をターゲットにしたものです。
そして、IDF 2010では“プロセッサSoCチップ”と“FPGA”を1つのパッケージに封止したモデルがあることも表明され、Atom E6xxシリーズが正式発表された際(2010年11月22日)には、この新しいモデルが2011年第1四半期に出荷予定であることが明らかにされました。
一般に普及しているプロセッサとFPGAが1つのパッケージに統合されること、そのプロセッサがインテル社のアーキテクチャであること、FPGAと統合した製品をインテル社が販売し、少なくとも7年間サポートすることなど、この新しいモデルの登場は組み込み開発者にとって、大きな意味を持つものといえるでしょう。
なぜ、FPGAとプロセッサとの統合が求められるのでしょう。
1つの理由として、多様なI/Oサポートの必要性が挙げられます。PCやセットトップボックスなどのアプリケーションとは異なり、産業機器、組み込み機器では必要なI/O機能とポート数の標準化は不可能です。そのため、PC系のようなIOH(I/O Hub)の標準チップが市販されるかどうかは組み込み機器開発者にとって気になるところでしょう。ただ仮に市販されたとしても、「大量な需要が見込める特定の分野向けになるのではないか?」「長期にわたって安定して供給されるか?」という心配も付きまといます。
これに対し、プログラマブルデバイスであるFPGAを用いてIOHを構成する方法を用いることにより、さまざまなアプリケーションに対応するプログラマブルなプラットフォームを手にすることができます。
これまでも、この方法を使った開発事例はありましたが、今回の新しい点は、“プロセッサチップとのインタフェースが汎用バスになった”こと、しかも、高速シリアルインタフェースである「PCI Express(PCIe)」が用いられていることです。FPGA側もハイエンドな製品から低コスト製品までPCI Expressをサポートするようになっていますので、プロセッサ+FPGA構成の標準的なインタフェースになっていくと思います。
プロセッサとFPGAの組み合わせにより、このような柔軟性とスケーラビリティのあるI/O拡張に加えて、特定機能を高速化できるようになります。言い換えるとプロセッサの負荷がオフロードされるので、機能・性能・消費電力などで他社の組み込み製品と差別化するのに役立ちます(特定機能の高速化については、連載第5回「ハードウェアアクセラレータ」の説明も参照してください)。
そして今回、インテル社はAtom E6xxプロセッサとアルテラ社のFPGAを1パッケージに統合する戦略を取りました(FPGAと統合した製品モデルはE6x5Cです)。この融合により、ディスクリートの構成に比べて基板面積を小さくでき、部品の発注・在庫管理やライフサイクル管理にも大きなメリットを得ることができます。
前回紹介したように、2000年前後にFPGAとプロセッサコアをワンチップに統合した製品が市場に登場し始めました。
ARM922TをハードIPで搭載したアルテラ社の「Excalibur」や、PowerPC 405をハードIPで搭載したザイリンクス社の「Virtex-II Pro」以外にも、Atmel社のAVRマイコンベースの「FPSLIC」という製品がありましたが、いずれも現在は積極的に販売されていません。また、Triscend社からは8051マイコンやARM7TDMIベースの製品が出されましたがザイリンクス社に買収された後に製造中止になりました。その他、幾つかの企業からもマイコンとプログラマブルロジックを統合した製品が市販されていました。
これら初期のCPU内蔵FPGAは、商業的に成功したとはいえませんでした。その理由として、まず性能とコストが挙げられます。当時のPLD/FPGAは、プロセッサチップより半導体プロセス技術の世代が古く、性能とコストの両面で商業ベースに乗りにくかったといえます。
しかし、10年の歳月を経て、その様相が大きく変化してきました。今やFPGAは最先端の半導体技術を使用する最右翼のデバイスとなりました。それにより、性能とコストの両方で、プロセッサを内蔵して実ビジネスに対応できるようになりました。反対に、特定用途/ユーザー固定のASICでは、最先端の半導体技術による開発費の高騰とエンドマーケットの需要の多様化に伴い、採算を取るのが難しくなっています。
また、開発者・設計者側にも変化が生じてきました。EE Times誌の2010年の調査(Embedded Survey)によると、組み込みシステムの半数近くにFPGAが搭載されているとのことです。また、アルテラ社のケースではアルテラ製FPGAの設計のおよそ3分の1で同社のソフトコアプロセッサ「Nios II」が使用されるほど、FPGAにプロセッサを取り入れる設計事例が増えてきたという事実があります。
さらに、組み込みシステムで使用されるマイコン/プロセッサにも変化が出始めています。4ビット、8ビット、16ビット、32ビットと多様なビット幅のCPUタイプが使用されていた10年前に比べると、現在は組み込み市場全体でより高速・高性能なプロセッサへの移行が進んでいるように思えます。多くの16ビットのマイクロコントローラは、32ビットプロセッサ製品に取って代わられる傾向にあるようです。多様なアプリケーションやニーズに対して、“システムのプラットフォーム化”がトレンドになっています。
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