PLMシステムの効果は、製品開発活動のアクティビティ支援から、製品開発プロセスを支援するビジネスモデルへと役割が進化してきています。
よって、PLMシステムを製品開発プロセスに対して効果的なシステムとして構築するには、設計部門だけが主体となって構築・活用するのではなく、製品のライフサイクル(少なくとも企画から量産開始まで)にかかわる関係部門も巻き込み、製品開発業務を可視化して付加価値を増大させるマネジメントを実現するのがベストです。
そこでPLMシステムの効果を理解するために、まずは製品のライフサイクルで発生する課題を3つのシナリオに分けて考えてみたいと思います。
製品のライフサイクルは年々短くなってきています。今日では従来の取り組みのように設計期間を2〜3割削減するだけでは収まらず、設計期間を半分から3分の1にすることを目標にするプロジェクトも珍しくありません。また設計期間が短くなったからといって品質を落とすことは許されません。
そこで流用設計や設計の標準化および試作回数を減らしたりといった対策が検討されます。
これらの対策はルールを作っても実際に運用を定着させることが難しいため、何らかの仕掛けを作って自動化するとともに、例外処理を少なくするための制約を設ける必要があります。
また、短い納期を達成するにはミスや非効率な作業の削減とともに、作業の手戻りによる工数の増加を抑えなければいけません。特に設計変更プロセスは各工程の検討結果を製品仕様として反映させるため、効率の悪いプロセスを運用すると途端に工数を消費してしまいます。
そこで、設計変更管理や過去のノウハウの流用を効率化するために、PLMシステムを導入し業務の効率化を図るわけですが、設計期間の短縮と作業の効率化に関しては、下記のような形で効果を把握することができます。
シナリオにおける 検討課題 |
PLMシステムでの 実現手段 |
PLMシステム 導入効果 |
---|---|---|
1. 流用設計の推進 2. 設計標準化の定着 3. 試作回数の削減 4. 頻繁なスケジュール変更の低減 5. 業務の見える化の実現 6. 遅過ぎる設計変更処理 7. 足りなくなる作業時間 8. 必要な情報が個人の資産になっており、対応が遅れる |
1. ペーパーワークや段取り時間の削減
2. 後工程に対する情報提供 3. 業務ルールの定着による責任の明確化 4. プロジェクト進ちょくの可視化 5. 調達の先行手配 6. 効率的な設計変更プロセスの運用 |
・短期間で上市できることによるマーケットにおける競争力向上
・収益体質の改善 ・イメージ・ブランドの向上 ・PLM導入により市場投入期間を10〜30%短縮可能 |
設計期間の短縮と作業の効率化のめやす |
製品や部品は年々スペックが向上するとともに、製品は薄く・小さくまた複雑になってきています。製品の仕様が高度化するのに比例して品質管理項目も増加し、それがまた設計者の負荷を高めています。
しかし、品質問題をおろそかにすることはできません。ひとたび品質問題が発生すると一利用ユーザーに対する問題でとどまらず、市場や企業および国家の産業レベルにまで品質問題が影響を及ぼすこともあります。
そこで品質管理メソッドや手法が導入されたり、教育や監査を頻繁に行い品質管理の徹底が図られますが、膨大なチェック項目を短い開発期間の中ですべてやり切るには、何らかの仕掛けを構築しなくては相当な工数と時間がかかってしまいます。
そこで下記に挙げた課題を解決し、設計時に品質を作り込む設計プロセスを構築し、高いレベルの品質を維持しつつ設計工数を維持・低減するような施策が実施されています。
PLMではすべてのデータが履歴を持って管理できるとともに、リレーションシップを用いてデータ間を関連付けて管理することができるため、自分以外の作業の成果をリレーションシップを経由して簡単に見つけることができたり、履歴をたどって作業者の設計意図を把握することが可能となります。
また、PLMシステムには構成データや入力データの差分表示機能が備わっているため、過去リビジョンとのデータを比較することで設計内容の変更点や変化点を簡単に把握できます。
このようなPLMの機能を活用して、品質管理の効率化を実現しているプロジェクトでは、下記のような形で効果を把握することができます。
シナリオにおける 検討課題 |
PLMシステムでの 実現手段 |
PLMシステム 導入効果 |
---|---|---|
1. 既知の問題にもかかわらず初期出荷で問題が発生 2. 過去に発生した問題を設計者が把握していなかった 3. 設計変更の意図が継承されずに問題が再発 4. 設計変更の進ちょくが部門を超えて共有できておらず、手戻りが発生 5. 品質問題に対するレスポンスが悪く、影響範囲が拡大 |
1. 流用設計や設計標準化の推進 2. 部門を超えた設計変更情報伝達プロセスの簡素化 3. 間違いやミス、伝達漏れにより発生する工数の削減 4. トレーサビリティの実現による影響の最小化 5. 顧客サービス品質の向上 6. 不具合発生による生産遅延の防止 |
・品質向上によるイメージ・ブランド向上 ・カスタマーリレーション強化によるリピートオーダー ・PLM導入により作業ボリュームを15〜50%改善可能 |
品質管理の効率化の効果 |
モノづくりの移転が容易になってきた今日では、従来であれば競合と見なしていなかった企業や国から、より安価な製品が提供され市場を奪われることも珍しくなくなってきました。
自社の製品に価格競争力を持たせるためには、製造の人件費を抑えるだけでなく製品コストの80%が決定される設計段階で、戦略的なコスト構造を決定しておく必要があります。
そのためには設計の早い段階で、調達やサプライチェーンを巻き込んだ価格戦略の立案や、製品原価情報を一元化してコストの遷移と予測・実績の見える化を実現したり、設計手戻りやリワークおよび廃棄を低減できるようにするのはもちろんのこと、製品開発にかかわる管理工数も削減して、製品原価の低減に取り組む必要があります。
PLMを使うと、PLMで管理している部品表を中心に、開発にかかわる人件費や調査コスト、加工コストなどを集計することが簡単にできるため、設計段階でも設計担当者が簡単に製品にかかわる原価を把握することが実現できます。
また、PLMシステムを使って複雑な業務を自動化することで、手戻りやリワークなどの工数を削減するとともに、管理工数を大幅に低減させることが可能です。
このようなコスト面に関するテーマに対しては、下記のような形で効果を把握することができます。
シナリオにおける検討課題 | PLMシステムでの実現手段 | PLMシステム導入効果 |
---|---|---|
1. 図面や仕様書および検査基準などを探し出すのに時間がかかる 2. 他部門や外注先が古いバージョンで作業をし、リワークや廃棄が発生 3. 製造現場に設計変更の情報がタイムリーに伝わらず、手戻りが発生 4. 変更内容の確認や作業進ちょくの確認に多くの時間と手間を掛けている 5. サプライチェーンを巻き込んだコスト設計ができていない 6. 製品原価の推移がリアルタイムに把握できず、結果として目標原価を達成できない |
1. 利用者のロールに合わせて適切な情報をセキュアに提供できるようにすることで作業時間や工数を削減 2. 正しい情報が部門を超えて提供できるようになることで廃棄やリワークを低減 3. 設計段階で調達やサプライチェーンを含めた戦略的な製造原価の立案 4. 製品原価のリアルタイムな把握による、正確でタイムリーな予実管理 5. 社外のサプライヤーを巻き込んだコストの最適化 ・付加価値の高い作業に時間を多くかける環境の実現 |
・作業生産性を5〜10%向上 ・原材料費を最大17.5%削減 ・生産性を10〜30%向上 |
コスト面の効果 |
Aberdeen Groupの調査では、PLMシステムを構築してフロントローディングを実現することで、17.5%のコストカット、10〜20%の品質向上、20%の設計期間短縮および上市までの期間を10〜15%削減できるといわれています。
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