構造物が軽くなるということは、剛性が低下しやすいというリスクも高まる。そこで、E-PL1では光造形で部品試作を行い、剛性の検討もしっかり行った。光造形は、剛性の確認のほか、実物で新規機構の動作を確認する場合にも用いる。
「かつての光造形は、時間もかかりましたし、造形技術も私たちにとって満足いくものとはいえませんでした。それが、ここ数年で技術が進歩し、こうして私たちの実務で有効に使えるものになってきたと思います。光造形用の樹脂も種類が増え、剛性評価でもきちんと使えるほどの強度が保てるものが出てきました」(高瀬氏)。
ただし光造形はいまもなお寸法精度が高くないため、精密に作って検証する必要がある個所については、造形品に追加工を施す、あるいは切削部品を使う。
E-PL1の設計試作では、筺体のフレーム構造部分には板金部品を採用し、外装部品には光造形部品を使用した。自分たちが設計した3次元モデルを造形で直に利用できる点は、大きな利点だと高瀬氏はいう。
筺体剛性の検証も、光造形を含む試作である程度行ってしまうとのこと。「光造形の部品自体は、通常のプラスチックと比べると破損しやすい(もろい)ものですが、金属のフレームと合わせることで、充分な設計検証ができます」(高瀬氏)。フレーム構造に使う板金部品も、早い納期でできてくるという。ちなみに、高瀬氏が過去に携わったE-410やE-620などでも、同様の検証を行ったとのことだ。「後工程に行った後にも、剛性について大きな問題は起きたことはありません」(高瀬氏)。
光造形は、上述のポップアップフラッシュの設計試作でも活用した。実物を作って動作させての検証で、自分たちの頭の中や3次元CADのモデルでは気が付きづらい問題を洗い出していく。
これだけ部品が密集し、かつハイビジョン動画も扱うとなると、熱がこもりやすくなる。熱については、シミュレーションでざっと検証してから、上記の試作品に熱電対を貼り、実験で検証するという。こちらも、最後は実機による検証を行う。従来機種での経験も、大いに生かされる部分でもある。
3次元CADへのシフト
以前の同社のカメラ開発部隊では、サーフェスCADと2次元CADを使っていた。サーフェスCADは外観の検討のみで使い、機構検討は2次元ベースで行っていた。
1990年に、現在のソリッドの3次元へシフトしたのは、とにかく「時間がなかった」ことが理由だという。競争の激しいデジタルカメラは、ライバルよりも一歩早い市場投入がビジネスの肝となることは、皆さんもご存じのとおりだろう。
「例えば2次元のデータを加工側に渡そうとすると、いったん3次元データを作らなければならなかったのですが、その時間がもったいない。『だったら、設計の段階で2次元CADの作業はなくして、3次元CADを使えばいいじゃない』と設計チームの中で意見が一致しました」(高瀬氏)。
3次元CAD導入当初、生産現場では、あまり高いスペックのパソコンが数多くなかったこともあり、そこで設計確認をするために3次元モデルを読み込もうとすると、非常に重たく、読み込みに苦労するなどあり得たという。
また設計現場では、設計者自身が思うがままにモデルを作ってしまう(モデルを引き継ぎした人が理解できなくなる)、形状が複雑になってしまうことなどもあったという。「でも使っていくうちに、扱いやすく化けにくいモデルを作るためのルールが、だんだん出来上がってきました。生産現場のパソコンも、対応できるスペックのものが補充されてきたことで、モデル表示が重たいという問題もだんだん起こらなくなりましたね」(高瀬氏)。
「とにかく使う!」と決め、使い続けていけば、だんだん操作を覚えていき、便利さもどんどん分かってくる。便利だと分かると、さらに使いこなし方を覚えていく、というポジティブなスパイラルが起こっていった。
3次元CADによる試作数の削減効果が大きいのはもちろん、他部門との情報のやりとりにおける時間短縮の効果も大きいと高瀬氏はいう。例えば、生産現場での組み立て確認では、2次元で伝えるよりも、3次元で伝える方が断然正確に伝わりやすい。また加工依頼を出すときも、やはり形状へのリクエストが正確に伝えやすい、かつ加工側からの説明も受けやすい。例えば、加工しづらい設計形状についての指摘もすぐにもらうことができ、設計者がそれを直感的に理解することもできる。すなわち、このコミュニケーションのロスの削減効果は、非常に大きいとのことだ。
「金型関連については、かなり楽になりました。型の設計ももちろんですが、製作時でも役立っています。私たちが設計した3次元モデルが加工に使え、しかも設計値に対し正確に形ができてくることも、大きなメリットです」(高瀬氏)。
なお新人技術者の教育については、「1日程度のCAD操作研修があり、あとはOJTで習得してもらいます」と高瀬氏。
最後に、小型化や軽量化における設計の秘訣を高瀬氏に聞いてみた。
「小型化をしたいなら、設計に携わる設計者1人1人が、『小型化する!』という強い意識を持つこと。何をするにしてもですが、設計へのインプットとして、何が優先なのかを設計チームで共有することが、第一だと思います。あとは具体的な技術の裏付けを1つ1つ丁寧に検証することも大事です」(高瀬氏)。
つまり「小型化に、王道はなし」――目的を絞り、地道な努力を重ねるしかないといえる。小型化が得意な高瀬氏は、もとい、“一本筋の通った、地道な努力が得意な人”ともいえるのかもしれない。
また「設計要件の優先順位」の大切さは、技術士 國井 良昌氏が執筆する『甚さんの設計分析大特訓』でも繰り返し述べられてきた。“何でもあり”で希望を盛り込みたい放題の設計では、E-PL1のような厳しい条件での小型化や軽量化は成し得ないだろう。
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