VR/ARが描くモノづくりのミライ 特集

3次元CADも「見える」から「そこにいる」へメカ設計 イベントレポート(13)(2/2 ページ)

» 2010年02月12日 00時00分 公開
[小林由美@IT MONOist]
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 読者の中にも、3次元表示技術関連が扱われる展示会で、HMDを覗くと恐竜が目の前で楽しそうに踊っている、そんなデモをご覧になった方もいらっしゃるかもしれない。

 同社が「ダイナソーダンス」と名付けた、このデモ展示は、「とにかく“3次元は楽しい”ということを伝えたい」というコンセプトだという。この「楽しく」というキーワード、キヤノンでこのプロジェクトを仕切る情報通信システム本部副本部長 浜谷 雅秀氏の中では、とりわけ大事なキーワードとのことだ。ちなみに今回は米国での紹介ということで、故マイケル・ジャクソン氏のダンスを取り入れたバージョンを持ち込んだ。こちらは展示ブース(会場内パートナーブース)のみで、一部の時間で紹介。

 このMRの世界、文章でその感覚を伝えていくのが極めて難しい。動画やテレビ番組ですら、その感じを説明するのは非常に苦心するとのことだ。だから一番は、まず使っていただくしかないのだが……。

HMD越しに見た展示会場

 「デモ機を体験した皆さんは、たいてい面白いといってくださいます。ただやはり、どうやってそれを自分たちの業務へ利用するのか、そこが大きな問題だと思うのです」(浜谷氏)

 MRの基礎技術自体は、10年以上前に確立されたもの。この10年で、同社が特に力を入れてきたのは、実用化に向けた表示精度の追い込みや、顧客ニーズの調査だという。これまで多くの企業・団体に貸し出しを行いながら、評価を重ねてきた。その貸出先の中には博物館も含まれている。その用途としては、ユーザーを対象にした市場調査に用いる、あるいは生産現場での作業の仮想体験など考えられるが、ユーザーの置かれた環境によって応用の仕方は無数にあるだろうとのことだ。

HHMD

 また同社はこのMRシステムを利用した空間設計CADも考えており、新しい設計と創造の形を模索しているとのことだ。「CADの操作は難しく、設計者はその習得や使いこなしに追われてしまうものです。設計本来の目的に集中できないこともあるでしょうし、それに、あまり楽しいことではないと思います。そこで当社では、もう少し習得が簡単で“楽しい”CADを提供し、もっと楽しいモノづくりが実現できればと考えています」(浜谷氏)。

 現時点は、あくまで浜谷氏の夢とのことだが、このシステムで、自身の手により粘土で造形するようなモデリングの実現を考えているという。例えば、指でスケッチを描き、そこに手のひらを置いて、ぐいっと上に持っていくと、押し出しができるようなこともできるかもしれないとのこと。「この技術とCAMのNCデータと組み合わせて発展させれば、目の前に現れた3次元空間の中で旋盤を回しながら部品を切削する、あるいは型割をやってみる、ということも可能になると考えています」(浜谷氏)。応力解析なら、モデルの面を指で押して変位を設定できるなども可能になるかもしれない。

 キヤノンは1997年に基盤技術研究促進センターと共同研究(MRプロジェクト)を開始。同プロジェクトが終了した2001年以降は、同社に研究が受け継がれた。以来、10年かけて商品化に向け調査と研究を重ねてきたという。2011年の上期を目標に、満を持して、MR Platform Systemを市場に出す予定とのことだ。

新しい感覚の3次元体験

 MRとは違うが、“3次元を体験する”という意味で類似した最新技術を紹介する。

 この会場にて、米インフィニットZは、同社の立体ホログラムシステム「zSpace」を展示した。専用のグラスをかけると、パネルに表示されたロボットの腕の3次元モデルがそこにあるように浮き出す。スタイラスの側面に配置されたボタンを押しながら先端を立体ホログラムに近づけ動かしていくと、別ディスプレイにてミクロな視点で腕モデルの配線などさまざまな部位を観察することができる。天井を仰ぐようにスタイラスを傾けると、カメラ角も天井を仰ぐ。

「zSpace」のデモ展示 立体の映像がお届けできず残念

 スケールに合わせた視点になるため、3次元CADやビュアで同様のモデルを眺めるよりも臨場感が出る。このたびの展示にはなかったが、車両のダウンスケールモデルを覗くようなシーンにも応用が可能だという。シェーディングをかけた画像も表示できる。

 3次元ホログラム表示では、クロストーク起因のノイズが明りょうな表示を妨げるという。同社の特許技術で、ソフト/ハードの両面からのアプローチでその問題に対処しているとのことだ。

 このシステムの個別商品化は予定にはなく、しばらくはユーザーに合わせたカスタム品の提供となるとのことだ。

 『アバター』のキャッチコピーは、「観るのではない。そこにいるのだ」。3次元CADモデルも、見るのではなく、体験する時代が近づいてきた。

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