シックスシグマプロジェクトが掲げた課題について、オーナーとして結果責任を負う役割を「チャンピオン」と呼びます。課題の影響範囲によって、経営層や、本部長クラスがその役割を担うのが一般的です。チャンピオンは全社的な経営目標に合致するような課題を設定し、プロジェクト遂行の途中で生じる障害を取り除き、プロジェクトの成功を支援していく責任を負っています。
シックスシグマで取り上げられる課題は、社内外の利害関係者を巻き込んで変革を進めていくものが多いだけに、トップレベルでの調整を行い、プロジェクトの取り組みを庇護してくれるチャンピオンの存在は、シックスシグマを推進するうえで、非常に大きいものがあります。
しかし、チャンピオンがこのような役割を十分果たしてくれず、プロジェクトチームが孤立したり、プロジェクトそのものが頓挫したりするというケースも、残念ながらよく見られます。
3つ目の落とし穴は、特に日本企業で多く見られがちな、名ばかりチャンピオンの存在です。
部品メーカーC社では、製品の不良率改善を目的にシックスシグマプロジェクトを実施しました。チャンピオンには生産本部のS本部長が着任し、生産技術課のY課長がリーダーとしてプロジェクトを推進しました。シックスシグマの各フェイズを経て、チームは新しい製造プロセスを実行することで、不良率を現在の0.1%から、0.001%までに引き下げることができるという確信を得るに至りました。チームはこの不良率であれば、現在行っている全数検査を抜き取り検査に変更することが可能で、結果的に品質管理本部の検査課4名を1名にできる、と結論付けました。
この報告を聞いたS本部長は、品質管理本部とのあつれきを生じることを懸念し、報告書からこの提言を取り除き、口外しないようにと指示をしました。
ショック受けたのは、プロジェクトのメンバーです。全社目標となっている生産性の向上に、より貢献できると考えていたものが、発表の場もなくもみ消されてしまったのです。
チームはほかの改善策も考えてみましたが、解決策に対する社内の利害関係に注意を払うあまり、自由な発想で効果的な解決策を導き出すという空気はすっかりなくなってしまいました。また、この件が歪曲されながら伝わったことで、検査課メンバーのプロジェクトチームに対しての感情的なわだかまりまで、生み出してしまいました。
この件に関しては、本来であれば、S本部長は課題のオーナーとして、役員会で打診をしたり、品質管理本部長と事前調整を行ったり、ということが期待されていました。もしかしたら、品質管理本部長は削減可能な3名の人材を、配置換えによってより重要な業務に就かせたかったのかもしれません。
シックスシグマは、会社の目標達成や顧客満足向上のために、全体最適の視点でどうするのが一番効率的で効果的なのかを求めていく手法です。それ故に、最終的な解決策は、部門を超えた取り組みや改革になることがほとんどです。
多くの利害関係者をどのように動かしていくかという点は、リーダーも頭を悩ますところですが、役員レベルでの合意を形成するためには、やはりチャンピオンの動き方(説得・交渉・根回し)が大きな影響を与えます。会社としてシックスシグマの導入を決めたのであれば、経営層は、「良きに計らえ(丸投げ)」「面倒は起こすな(監視)」という形の関与から、「一緒に最高の成果を生み出そう(共創)」という形の関与へとスタイルを変えていくことが、とても大切になります。
チャンピオンはその責任と役割を十分に理解し、プロジェクトにかかわりましょう。
あまり動いてくれないチャンピオンの下でプロジェクトリーダーとなった場合には、それ自体がプロジェクトの成否を左右する大きなリスクととらえ、早い段階から、チャンピオンを巻き込む(=意識やスタイルを変えてもらう)ための対策を取ることが重要です。
ここまで、シックスシグマを導入/実施する際につまずきがちなポイントについて、ご紹介してきました。シックスシグマは課題解決の方法論であり、人材育成の側面を持っているということは前回ご説明しましたが、今回取り上げた落とし穴は、特に人材育成を目的とした、社内へのシックスシグマ定着の面で大きなマイナス影響を与えるものになります。
「手間ばかり掛かって、効果が少ない」「大きなことをいって始めるのに、結果は小さい」「課題責任者がちゃんと動いてくれない」。
シックスシグマを導入したものの、定着化が図れていない会社の社員の、シックスシグマに対する評価はこの3つが多いと感じます。しかし、これらの「落とし穴」は、その存在をあらかじめ意識することで、ちゃんと回避することも可能なのです。
次回(第3回)は、「成功例」を参考に、各フェイズでおこる障害をどのように乗り越えて、結果を生み出していったのかについて、見ていくことにしましょう。
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