失敗から学ぶ! T部長がハマった穴とその中身シックスシグマの落とし穴(2)(3/4 ページ)

» 2009年12月08日 00時00分 公開

【落とし穴その2】混沌を生み出すあいまいな計画

 課題が決まれば、解決に向けたプロジェクト計画し、実施の承認を受ける手順に進みます。

 計画には、以下の質問への回答をしっかり盛り込む必要があります。

  • お客さまは誰で、彼らは何を望んでいるのか?
  • 問題は何か?
  • 何を成し遂げたいのか?
  • 経営目標とはどのように関係するのか?
  • 障害やリスクは何か?
  • 対象とする業務範囲は?
  • プロジェクトの体制とスケジュールは?

 これらをプロジェクトチャーターと呼ばれる、プロジェクトを具体的に推進するための計画書に記載し、チャンピオンの承認を得て取り組みが開始となりますが、実はここに2つ目の落とし穴が潜んでいます。

 体制を組んで詳細な検討を始める前に、これらの内容をまとめる必要がありますので、多少のあいまいさを残して進むのはやむを得ないところです。しかしながら、目標や対象の業務範囲をあいまいに進めてしまうと、後のフェイズになって大きな手戻りが必要になったり、プロジェクトチームの亀裂が生じてしまったりという可能性を高めてしまうことになります。

例題:O課長に降りかかる災難

 精密機械メーカーのB社では、社外研修を利用し、4カ月の期間をかけて営業管理部のO課長にシックスシグマを学ばせました。研修の題材としては「製品Aの欠品率を半減させる」ことをテーマに選んだのですが、O課長は複数の部署のメンバーで編成したチームをリードし、見事に当初の目標を達成できました。

 シックスシグマの効果を実感した社長は、経営目標に直結する課題として、「営業利益率が低下している」ことを取り上げ、「営業利益率を5%伸ばす」ことを目標とするプロジェクトを立ち上げ、研修を終えたO課長をプロジェクトリーダーに任命しました。

 全社的な業務改革が必要と感じた社長は、自分自身がチャンピオンとなり、対象の業務範囲は社内の全業務と設定し、すべての部署からえりすぐりのメンバーを集めてプロジェクト体制を構築しました。


「大風呂敷」を見極める

 このタイプの課題設定もよくあるケースで、かつ満足いかない結果を生み出す典型的な例になります。このケースで設定した課題は、先に挙げた「シックスシグマに適した課題」の条件をすべて満たしています。社長もやる気にあふれ、部門を超えたメンバーをそろえていますね。では、何が問題なのでしょうか?

 実はこの例で問題になるのは、「検討範囲が広過ぎる」という点です。実際にこのプロジェクトを始めてみると、現状調査だけで膨大な時間がかかってしまうのは目に見えています。

 「営業利益率」に影響を与える要素だけでも売り上げと売上原価、販売管理費という項目があり、その中身はより細かく分類されています。

 そして、これらの項目に影響を与える業務プロセスはというと、ほとんどの業務プロセスが該当してしまい、主要なものを絞り込んだとしても、業務フローを図にするだけで多くの時間を費やしてしまうことになります。

 多くの場合は、この時点でギブアップをし、もう一度、社長に対して範囲をもう少し狭めることはできないか、という交渉を始めるようになるでしょう。

 社長が理解を示し、新しい目標を設定して再スタートしたとしても、ここまでに費やした時間とメンバーの工数を考えると、大変痛い手戻りです。

 それでもこれはまだいいケースで、社長の理解を得られない場合には、ぼんやりとしか見えない現状分析を見ながら、「落とし所」を手探りで探っていくような状態に陥ります。

 データから確認された事実や根拠というよりも、このあたりでまとめていこう、という恣意的な判断も働きがちですので、チームの一体感も徐々に低下していきます。

 実際にこのような進め方をした場合に目標達成に至ることは非常に難しく、結果として「大風呂敷を広げたものの、シックスシグマってこの程度ね」というマイナスイメージを社内に植え付けてしまうことが大半です。

ポイントの整理

 高い目標を掲げることは大切ですが、課題選定の際には、調査や改善の対象とする業務範囲、プロジェクトの期間にも十分配慮しましょう。経営層の期待値と実際にできることの擦り合わせは、プロジェクトチャーターづくりの中で十分過ぎるほど行う必要があります。リーダーは、「経営層は一度広げた風呂敷は畳みにくい」ということを理解し、プロジェクト実施に当たっての制約やリスクをあらかじめチャンピオンと共有しておくことが重要になります。

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