SysMLは、システムエンジニアリングにどのような効果をもたらすだろうか。ここでは前述したSysMLの特徴に着目して、SysMLの効果について紹介する。
モデルを使って物事をグラフィカルに表現することで、さまざまな効果が得られる。
モデルを使うことによって、現実の事象の詳細にとらわれ過ぎない、物事の抽象的なとらえ方が容易になる。また、構造や振る舞いなど、複数の異なる視点からモデル化することで、一面的な思考にとらわれずに物事を多面的にとらえたり、多面的に分析したりできる。
物事をグラフィカルに可視化して表現することにより、より多くの物事やそれらの関係を、直感的に理解することが容易になる。結果として、多くの物事の関係や物事の複雑さを、細分化、階層化するなどして整理しやすくなる。このように物事を整理して可視化することにより、SysML利用者の思考が促進されるため、より高度な成果が期待できる。
標準の言語を使うことで、情報の共有が容易になる。例えば、ドキュメントを記述する際、いちいち表記方法や意味についての説明を記述しなくても、ドキュメントに対する理解を共有できる。また、自然言語を異にする多文化圏をまたがった情報の共有が容易になる。
さらに、多くのツールが利用できる点も標準言語を使うメリットといえるだろう。SysML対応のモデリングツールを使うと、ツールがSysMLモデルの構造を解釈するため、モデルの不整合や文法誤りなどを検出することが可能になる。ツールがシミュレーションなどの高度な分析支援機能を提供している場合もある。
システムを開発するうえでは、システム設計担当者、ハードウェア担当者、ソフトウェア担当者の間で、システムについての理解を共通化する必要がある。UMLはこれまで主にソフトウェア開発分野で活用されてきており、システム設計担当者やハードウェア担当者がUMLを知っていることは、通常期待できない。
SysMLの言語仕様は、UMLに比べてコンパクトなため覚えやすい。システム設計担当者、ハードウェア担当者、ソフトウェア担当者といった関係者がSysMLを利用することで、システムについての理解を共通化することが容易になる。
最後に本章では、SysMLの各種ダイアグラムについて簡単に紹介する。なお幾つかのダイアグラムについては、今後の連載で詳細に解説する予定だ。
SysMLにおいて、ブロックはシステムやその構成要素を表す単位である。ブロック定義図は、ブロックやブロック間の関係を定義するためのダイアグラムである。
ブロック定義図を使うことで、ブロックの実際の使われ方から離れ、ブロックのより本質的な部分に着目した、抽象度の高い分析が可能になる。
内部ブロック図は、ブロックの内部構造を表現するためのダイアグラムである。あるブロックが別の種類のブロック群から構成されることを表現したり、構成要素間の接続関係を表現したりできる。
内部ブロック図を使って、システムの構造を詳細に検討したうえで、ハードウェアとソフトウェアの役割分担を決定できる。
パラメトリック図は、システムに現れるさまざまな値の間に成り立つ制約を、数式などを使って表現するためのダイアグラムである。
パラメトリック図を使って、性能上重要なパラメータを特定するなどの分析を行うことができる。
アクティビティ図は、作業や処理がどのような順序で進むか、また、どのような条件のときにどういった処理が実行されるのかといった、システムやその構成要素の振る舞いを表現するためのダイアグラムである。
アクティビティ図を使いシステム全体の振る舞いを分析することで、異なる視点からの分析(構造の分析など)を進めるために有用な情報を得ることができる。
要求図は、システムが満たすべき要求や、要求間の関係を表現するためのダイアグラムである。
要求図に登場する要求をほかのダイアグラムにも表記し、ほかのモデル要素との関係を表現することで、要求のトレーサビリティを明確化できる。
そのほか、UMLに含まれる以下のダイアグラムをSysMLでも利用できる。
パッケージとは、ブロックなどのモデル要素群をグループ化するためのモデル要素である。パッケージ図は、パッケージやパッケージ間の関係を表現するためのダイアグラムである。
シーケンス図は、モデル要素間の相互作用を時系列的に示すことで、モデル要素の協調によって実現される振る舞いを表現するためのダイアグラムである。
状態マシン図は、ブロックなどが持つ状態や可能な状態遷移の仕方を表現するためのダイアグラムである。
ユースケース図は、システムの機能や機能とシステム利用者との関係を表現するためのダイアグラムである。
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