製造系企業における課題解決の基本精神に、3現主義があります。
という戒めですが、そのまま品質改善にも当てはまります。
本連載の冒頭で、小集団活動や技術者個人の取り組みでは限界に来ているから、プロジェクトチームを作って、組織一丸となって慢性不良に取り組もうと提案しました。しかし、プロジェクト会議ばかりになってはいけません。
会議室の議論も大切ですが、そこから導き出されるのは既知の要因の確認にすぎず、会議室では未知の要因はなかなか出てこないのです。従って、メンバーは3現主義で現場を重視して改善に取り組んでほしいのです。「不良は会議室で起きているんじゃない!」ですよ。
その第一歩が「3現観察法」です。現場に行って、良品と不良品を比較して、差異があるか観察してください。前項の慢性不良の現状実態分析で4つの項目を確認し、チームで情報を共有しましたから、どの製品を比べたらいいか分かるはずです。
実際に現物を目の当たりにしながら話した方が、改善のヒントはつかめるはずです。逆に、見比べても何も分からないとなれば、それが問題なのです。「不良の見える化ができていない=技術力不足」という課題が分かったということです。
パイプを製造している工場で、ある製品だけ内圧試験が通らないという問題がありました。内圧試験ではパイプの両端をふさいだ状態で、中から所定の圧力を掛けて、耐圧性能を試験します。ところが内圧試験中にパイプがパカッと割れるのです。それでロットアウトになるものですから、とても困っているのです。
不良ロットのパイプと良品ロットのパイプを見比べても、表面的には何も分かりません。ここであきらめたら改善はまったく進みませんから、プロジェクトメンバーで現物を前にして脳ミソに汗かいて、うんうんと考えるわけです。
Aさん 「内圧試験が通らないということは、肉厚が薄いんじゃないの?」
Bさん 「外径はオンラインで測定しているから、肉厚も問題ないはずだけど」
Cさん 「とにかく良品と不良品のパイプの両端を測定して、比較してみようよ」
しかし、良品と不良品のパイプの肉厚に大きな差はなく規格内です。
Aさん 「じゃぁ中心部はどうだろう? 肉厚にバラツキがあるかもしれないよ」
Bさん 「だけど中心部の肉厚なんてどうやって測定するの? 切断したらうまく測定できないよ」
Cさん 「品質管理課に超音波測定器があるじゃないか。それで測定できないかな」
パイプに細かくメッシュを書いて、超音波測定器で肉厚を測定してみると、肉厚にバラツキがあり、明らかに薄い個所がありました(図3)。
図3 超音波測定器によるパイプ中心部の肉厚測定
Aさん 「明らかに肉厚が薄い個所に印を付けて、内圧試験をしてみよう。薄い個所から割れるのでは?」
Bさん 「それが分かったからって、何になるの?」
Cさん 「1本だけでなく、ロット分まとめて内圧試験をやれば、何か傾向が分かるかもしれないよ」
内圧試験の結果、予想どおり印を付けた薄い個所が割れました。
Aさん 「予想どおり割れたけど、何か傾向をつかめないかな?」
Bさん 「割れ方には、そう違いはないね」
Cさん 「生産している順番に、割れたパイプを並べてみてはどうだろう」
Aさん 「よし、やってみよう!」
肉厚試験を行ったパイプを生産した順番に並べてみると……(図4)。
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