佐藤:「CAEは解析専任者の聖域なのか」と聞かれることが非常に多いです。それだけ、解析専任者が自分たちの領域に部外者を入れなくなってきているんですね。解析者が設計者の解析を信用できない、 つまり解析を任せられないというのも問題ですね。
設計者の視点からいえば、解析専任者の言葉が理解できない、「この人、何いっているの?」っていう状態になってしまうんです。栗崎さんの基調講演でも同様の話が出てきましたが。
会社の組織構造が原因である場合もありますね。部門間でどちらに決定権があるか、という言い争いに発展してしまうこともありますし。
とにかく、お互いが意地を張り合っているんです。お互いにコミュニケーションを取ろうとしないんですよ。ですから、お互いができる限り、歩み寄らないといけませんね。
解析専任者は難しいことをやりたがりますが、それをどんどんやればいいと思います。ただし、それを大衆化していくことが大事ですね。それを誰もが使える技術へ落とし込んでいくんです。そういったことが技術者としてのモチベーションもあげていくことにもなります。
先ほど申し上げましたように「私たちは、何をするべきか?」という本質を見極めながらも、材料力学や有限要素法について設計者たちも努力して習得するようにして、解析技術への理解を深めることも大事でしょう。
栗崎:設計者と解析専任者の理想的な関係とは、どういうことだと思いますか?
佐藤:同じ言語で話せるか、それにつきますね。つまり両者が同じツールを使えるようにすることです。設計者と解析専任者とでは、大体が違うツールを使っていることが多い現状ですね。例えば私が解析専任者だったら、いきなり3次元CADを使いなさいといわれても、使いませんね……。業務で忙しいでしょうから覚えている暇がないでしょうし。
解析専任者が3次元CADを使えば、自分で形状を修正でき、条件設定もでき、シミュレーションもできます。それで、いろいろな設定をどんどん試していき、その結果を評価しながらノウハウが溜まっていく。
そこでツールが使いにくければ、ギブアップしてしまうものです。使いやすくあれば、自分でどんどん実験できて、ノウハウが溜まっていきます。 ツールの使いやすさは大事だと思います。 当社も含むツールベンダは、どこもユーザーの敷居を下げようとしています。
栗崎:先ほど紹介されたモデリング機能は、いいとこどりっていう感じですね。形状認識技術の塊というか。
榑谷:まさにそうですね。
栗崎:最近のパソコンはCPUのグラフィック性能も高いからなのか、ダイレクトモデリングのような形状認識技術はCADの業界で流行っているじゃないですか。CATIAもそうですし、御社のNXやSolidEdgeも。3次元CADは今後、そういう方向に行くんですかね?
榑谷:確かに最近のトレンドでありますね。
以前在席した会社で、私は2つのCADを経験しました。最初に使ったのは、フィーチャーパラメトリックを使った素晴らしいソフトでした。しかし会社から、ある日、別のものに切り替えなさいといわれたんです。それは100人の設計者がいたら、30人ぐらいしか使えなかった事情からなんです。それを70人が使えるようにしなさいとのことでした。ですから、とにかく操作が簡単な3次元CADの導入をしようと考えました。
その後も、まだまだ壁は感じました。フィーチャーパラメトリックがある限りは、作業の手数が増えてしまうのは宿命です。そこをなるべく減らしていこうという動きは、自然な成り行きではないでしょうか。
栗崎:日本人の誇りを大切に……インターナショナルな時代ですから、何だか違和感がある表現とは思いますが、大事な想いではないでしょうか。小さい国で、資源も少ない国が、世界に多大な影響を及ぼすには、やはり製造業が鍵でしょう。日本の製造業を皆さんの手で、どうか盛り上げていってください。私も精一杯皆さまのお手伝いをしていきます。
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