MONOist編集部が開催するゼミナールに関するレポート集。本稿で「MONOistゼミ 設計者と解析者をつなぐ 3D活用術」のセッションとパネルディスカッションの内容をお伝えする。
MONOistゼミ レポート(1)では、MONOist編集部が開催した「MONOistゼミ 設計者と解析者をつなぐ 3D活用術」から、キャドラボ 取締役 栗崎彰氏の基調講演「設計者がCAEを成功させる10の方法」の内容をお届けしました。今回はその後に行われたセッションとパネルディスカッションの内容についてとなります。
1本目のセッションでは、シーメンスPLMソフトウェア マーケティング本部 ストラテジー&プランニング グループ 榑谷(くれたに) 悦朗氏が登壇。榑谷氏の前職は、大手メーカーの設計者。当時(1990年代後半)は、社内の3次元CADやCAEの導入推進やトレーニングもご担当されました。そのとき、実際苦労された話を交えながら、CAE導入で陥りやすい問題を説明してくださいました。
榑谷:私のいた会社の設計者は、解析が必要なときには解析専任者のいる自社の研究所へ解析依頼を出していました。そのとき、いったいどの書類を使い、誰に出したらいいか、よく分からないという人が多かったんです。人のツテをたどり、研究所内の解析専任者を紹介してもらったら、その人は解析システムの改善が仕事であって、他部署の解析を請け負うのが仕事ではありませんといわれてしまうということもありましたし。
そこで、設計者のためのCAEの導入推進が始まりました。私はその担当となりました。
ベンダが簡単で便利だというツールをいろいろ紹介してくれましたが、彼らがいうようにはうまくいかないものでしたね……。CAEを実際に使ってみようという段階になると、設計者なら当然、工学を勉強してきているだろうし、当然材料力学や有限要素法は習得しているでしょうということで、理論の習得は省かれ、ソフトウェアの操作トレーニングがたった1日だけ。
CAEを使い始めた設計者からは、解析の精度について必ず聞かれました。エラーが出たり、変な答えが出たり……。実験結果とぜんぜん合わないといわれたり……。とにかく解析結果が信用できないと訴えてきます。
会社からは結構投資をしてもらっていましたから、「どうにかアウトプットを出さなきゃ」と私もあせります。ベンダからもいろいろアドバイスはもらいましたが、うまくいきません……。そして、期末になると効果について上司からちくちくいわれてしまう……レポートを出しなさいといわれてしまう。しかしCAEの導入効果をレポートにするのは非常に困難で、どう工夫しても嘘っぽい効果測定になってしまうんですよ。
若い設計者に「CAEはどうだ?」と聞いてみれば、「マネージャにやれといわれたからやっているだけ」といわれてしまうんです。設計者の間では、CAEといえば、とにかく手間が掛かるばかりで仕事が増えてしまうだけの厄介者のイメージが濃かったんです。過去は、解析などしなくても、ある程度見当を付けて試作をしていけば、何とか製品が出来ていたわけですし。
これには非常に悩みました。私は「解析とは何だっけ」というところから考え直していきました。その結論としては、解析を行い、実験で検証し、照らし合わせいくことの繰り返ししかないだろうということに行き着きました。ですが設計者は時間がないし、CAEに対しよくないイメージを持ってしまっているしで、検証には付き合ってくれないでしょう。だからといって、私だけでは無理……。
そこで社内の解析専任者をかき集め、相談したんです。彼らの協力の下、解析できる現象を1つ1つ明確化していきました。特に、設計者がやりたいと思うパターンに集中させました。例えば「板金構造の筐体で、ねじり剛性はこれくらい確保せよ」など。いくつか設計でよく使いそうなパターンを作っていき、解析する手順もフローチャート化しました。そうしながら、設計の中で使ってもらううちに、解析精度がだんだん上がってきました。やがてパターンも増えていき、データベース化も進めていきました。やがては、設計者でも高度な解析もできるようになっていったのです。
設計者にCAEをうまく使ってもらうにはどうしたらいいか。もちろん、栗崎さんがお話になった「解析工房」のようなトレーニングも非常に有効だと思います。当時、これがあったら私はもっと楽だっただろうな……と思いました。
私は、コミュニケーションの手段をいかに構築するか。これがかなり肝だと思っています。解析内容のデータベース化もそうですが、業務分担の明確化も大事です。設計の中のどのタイミングで、誰に解析を依頼したらいいかなどもドキュメント化してもいいでしょう。
それを実現するためには、社内データベースの整備が重要です。そのうえで、解析者と設計者が同じ言葉、つまり同じシステムが使えることも大事になると思います。
例えば、設計の3次元モデルは、かなり細かいところまで作り込まれます。ただし、解析側にとっては、必要がない部分がだいぶ含まれています。解析を解析部門に依頼することを前提とすると、解析専任者は「モデルを修正してくれ」と、設計者に戻します。これは無駄な作業です。
解析専任者が自ら3次元CADを使いモデルを修正するメリットは大いにあると思います。設計者へモデルを差し戻す時間を省けるばかりでなく、設計者へ逆提案もできます。
ただ、解析専任者はCADはほとんど使いません。3次元CADの操作を習得しても、使用頻度が少ないため、忘れてしまいやすいのです。しかも、社内でいろいろなCADを使っている場合ですと、それを解析者がすべてそろえないといけなくなるということですが……これはちょっと現実的ではありませんよね。簡単で直感的に操作でき、さまざまな種類のモデルデータが扱える3次元CADがあれば、それらの問題が解消できると思っています。
2つめのセッションは、計算力学研究センター CAE技術開発部 課長代理 岡田 光代 氏によるシーメンスPLMソフトウェアのミッドレンジ3次元CAD「Solid Edge with Synchronous Technology」の編集テクニック紹介でした。実際にCADを操作ながら、ちょっぴりユニークなシンクロナステクノロジの最新機能の動きを分かりやすく説明してくださいました。
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