パネルディスカッションでは、栗崎氏がモデレータになってくださり、セッションでお話されたシーメンスPLMソフトウェアの榑谷氏と、同社 技術本部 ビジネスコンサルティング部 CAE担当技術部長 佐藤 英一氏(パネルディスカッションのみ)がパネリストとして登場されました。 会場の都合により、ディスカッションは30分で打ち切られ、少々駆け足になってしまった感がありました……。それだけ今回のゼミのお題の奥が深いということで、とことん語るなら、せめて倍ぐらいは必要だったかもしれませんね。
佐藤:私は元造船技師です。造船では実機を使った実験が困難ため、ほかの業界と比べれば、解析への取り組みが早くから進みました。そんな状況でしたから、私は若いうちから解析と設計を同時に経験することができました。その後、CAEの業界へ移ってきたとき、非常に驚いたのは、設計者と解析者との強い軋轢(あつれき)でした……。
さて、私が考えるところの課題を次のように挙げていきましょう。
栗崎:何だか最近、現場がすごく急いでいる感じがしますよね。
以前、とある方から「11円株式会社」という話を聞きました。10円玉は銅、1円玉はアルミニウムで出来ています。つまり、それらを使うと電池が作れるわけです。
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⇒ | たった11円でもできる、カンタン電池の仕組み |
その電池が仮に、11円で1W出せるとしましょう。ある開発部隊のリーダーが、Aさん、Bさん、Cさんに対し、「12W出せる電池を作りなさい」と命令をしたとします。
この場合、一番出世するのはAさんなんですよ。しかしこの技術は、市場に出てから重大なエラーを起こし、会社に大損害を与えることになります。しかも海外の会社で模倣され、コストの半分で生産されてしまいます。彼らの会社の机には……何とCさんの書いた論文が!
編集部注:上記の11円株式会社の話は、その原典となる話とは若干内容が異なる可能性があります。ここでは栗崎さんの意図を考慮し、記者がアレンジを加えています。なお、根拠や数値は一切架空のものです。
このような調子で、多くの会社でスピードが要求されている現状ですから、CAEで素早くメッシュが切れることって、非常に望ましいわけですね。ですが私、そんなに簡単にメッシュが切れて、解析が出来てしまうのは、正直いって「怖い」と思っています。
佐藤:そうですね。自動でメッシュを切れ、きれいなデータが出てくると、人はそれを無条件で信用してしまいがちですね。
有限要素の話以前に、「私たちは、何のために解析をするのか」を当事者たちがしっかり考え、理解することが大事だと思います。力学の……理論というよりは、もっと感覚的な部分での理解です。「力というのは硬いところに流れる」、そんな感覚を持っていないといけません。私はそういうことを先輩から、仕事を通して教わってきました。
十分計算したつもりでも、市場に出てから、定期検査があったときに問題が起きたりしたものでした。上司から「部品の重量を軽くしなさい」といわれた個所があり、その部分の板厚を薄くし、もちろんしっかりと計算して大丈夫だと判断しました。ところが定期検査のとき、そこがベッコリと凹んでいたんです……。クリティカルな部分ではなくて幸いでしたが、これはとても冷や汗をかきました。そうして、計算した結果と実物の様子を見比べて、その結果を肌で感じて覚えてきたんです。いま思えば、それが非常によかったと思っています。
以前、私は「クライマーズ・ハイ」という映画を観ました。航空機の墜落事故を追う地方新聞社の話です。ここで、「チェック、ダブルチェック」という言葉が出てきましたが、これが私にとっては非常に心に残っています。この主人公は劇中で、ベルトにサスペンダーをしている新聞社の編集長のエピソード(米国映画「地獄の英雄」のシーン)について話します。「ベルトにサスペンダー」は「チェック、ダブルチェック」、すなわち慎重さの証であり、主人公はそれを美点としているんです。その心構えが、解析とも共通しているように思いました。CAEでチェックし、さらに自分でもチェックをする。
とにかく一番大切なのは、自分たちが何をやりたいのか本質を見極めようとすること。そうすれば、導き出された解析結果のうち、何をチェックすればいいかも自然と分かります。
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