それでは、XVLのほかにはどんな軽量3次元データがあるでしょうか。海外では、シーメンスPLMソフトウェアの提唱するJTフォーマットがあります。JTの特徴は、高速表示のためのポリゴンデータと、CADデータをそのままの精度で表現できるB-reps(注)という形式の両方をサポートしていることです(実際は、Parasolidというソフトウェアのフォーマットを利用)。
JTフォーマットの最も大きな特徴は、後者のCADと同等の精度を持って形状を表現するという点です。これは、JTフォーマット化したデータが再びCADデータにきちんと戻せるということを意味します。この特徴を評価し、海外にはJTを長期保存用のデータとして利用しようという動きがあります。また、この背景には、シーメンスPLMソフトウェアがJT Openという団体を作り、JTの仕様を公開するなど標準化に向けて積極的な動きをしているということもあります。
注:B-reps(Boundary representation)境界表現による三次元形状の表現手法の1つ。
一方で、JTフォーマットがCADと同等の精度を持つということは、データ量が軽くならないということを意味します。実際に、XVLとB-reps形式データの1つであるJTを比較すると20〜30倍もデータサイズが違います。これでは、設計の後工程でJTを手軽に利用するというわけにはいきません。後工程では、ポリゴンだけのJTを利用するという手段もあるでしょう。しかし、精度を失ったポリゴンはCADに戻しても意味がありません。つまり、長期保存には使えません。CADにデータを戻したいというニーズに基づく長期保存にはB-repsのJTを利用するの正しいアプローチの1つでしょう。ただし、前述のようにデータ量の問題がありますから、JTは利用目的をはっきりさせて、B-repsとポリゴンを使い分けていく必要があるでしょう。
JTフォーマットのもう1つの特徴は、シーメンスPLMソフトウェアのCADであるNXとPDM(データ管理ソフト)のTeamcenterとの相性がいいことです。例えば、NXのデータをTeamcenerに登録すると自動的にJTが生成されます。常に最新の状態が維持されるので便利です。JTを利用するためのソフトウェアにはTeamcenter VisualizationといったJTを表示、編集、検証するためのソフトウェアもあります。この製品名称からも分かるように、JT表示ソフトはPDMのTeamcenterと連動するとき、最大の効果を上げます(CADとPDMを収益の柱とするCADメーカーにとって、JTはTeamcenter拡大のための最大の武器ともなるわけです)。
逆に、Teamcenterと切り離されてしまうとJTの魅力は半減してしまうともいえるかもしれません。高額なPDMを誰でも利用できるわけではありません。PDMがない環境では、PDM内の情報を「モノづくり情報」として内包できるXVLを利用するというのも有効です。NXとTeamcenterの両方の環境を持っていればJT、そうでない環境、例えば、ダッソーのCATIAやSolidworks、PTCのPro/EngineerユーザーやPDMを持っていないユーザーはXVLという使い分けも有効でしょう。また、長期保存されたJTがあれば、それを有効に利用する手段も提供されています。JTからXVLに変換すれば、20〜30分の1に軽量化するので、後工程でも利用しやすくなります。図5に示すように、JTデータをXVL化することで、長期保存されたデータから「モノづくり情報」の流れをつくることができるのです。
軽量3次元データフォーマットはますます進化し、その活用範囲を広げています。CADからCGのデータ変換に利用し、リアルなCG画像を作成したり、CGソフトでのアニメーション編集結果をXVL化して、軽量配信したりと、ユーザーがそれぞれの工夫で成果を上げています。
設計の現場を訪問すると「まだ、3次元設計は70%しかできていない。不完全な状況では、3次元データ活用はまだ進められない」といわれることがあります。これは本当でしょうか。
最後に3次元データ活用で成功している企業の共通の特徴を紹介しましょう。それは、「3次元データが70%しかない」と考えるのではなく、「3次元データが70%もある! 活用方法を考えよう!!」と前向きに考えることです。この3次元データ活用への積極的な姿勢が結果として、決定的な成果の差を生むのです。
21世紀を勝ち残る企業になるために、「知のめぐりのよい組織」を構築していく、そのために軽量3次元データを活用することが企業の競争優位を保つための有力な戦略となろうとしているのです(連載第2回へ)。
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